資産を運用する

家庭経済の耳より情報

2016年08月30日

フィデューシャリー・デューティーの適用拡大

 平成27年9月金融庁発行の金融行政方針によると金融行政の重点施策として「商品開発、販売、運用、資産管理それぞれに携わる金融機関が、真に顧客のために行動しているかを検証しつつ、フィデューシャリー・デューティー(筆者注:受託者責任fiduciary duty)の徹底を図る」とあります。

 平成28年7月6日金融審議会「市場ワーキング・グループ」の説明資料「国民の安定的な資産形成とフィデューシャリー・デューティー」を引用し、その内容について考察します。

■我が国の資産運用の現状
1.国内において、20年近く続いたデフレ下、1,700兆円の家計金融資産は、その大半が預金で運用されている。
2.米英に比べると、我が国の家計金融資産の伸びは小さい。
3.米国では、70年代から80年代にかけて、IRA(個人向け確定拠出年金制度)や401kなど、適切なポートフォリオの形成を通じ、家計の中長期の資産形成を促す政策が累次導入され、結果として、株式・投信等への投資割合は、80年代後半から大きく上昇している。

●国民の家計意識
現実には、投資を行ったことの無い者の殆んどが「資産形成のためには証券投資は不要」と考えているほか、金融投資教育を受けたことの無い者の3分の2が、「そもそも金融や投資の知識は不要」と回答している。職場積立・NISAや確定拠出年金の機会等を活用した教育環境整備も必要(金融審議会)。

●金融機関等
・投資信託や貯蓄性保険の主な販売チャネルである金融機関(販売会社)において、必ずしも顧客本位とは言えない販売実態がある。
  投資信託:売れ筋は、特定の資産に偏ったテーマ型の商品や手数料が稼ぎやすい商品。
  貯蓄性保険:売れ筋は、運用商品と保険商品を複雑に組合せた一時払い保険だが、その販売手数料は高水準かつ不透明である。
・商品開発や販売等に携わる金融機関では、真に顧客本位の業務運営(フィデューシャリー・デューティー)を徹底し、顧客に必要な情報を提供するとともに顧客のニーズや利益にかなう商品・サービスを提供することが必要(金融審議会)。

●機関投資家
・GPIF等の公的年金は、従来の国債中心の運用からポートフォリオを変更
・ゆうちょ、かんぽも運用の分散と高度化を進める方針に転換
・他方、GPIFや年金基金等から運用を受託している資産運用会社等については、運用やスチュワードシップ活動(投資先企業に対する議決権行使や投資先企業との対話)の面で、真に顧客のために行動しているのか等に懸念があるとの指摘もある(金融審議会)。


■国際的な政策(参考)
1.米国エリサ法(Employee Retirement Income Security Act(1974年))
 企業年金の加入者が有する受給権の保護を目的として、1974年に制定された企業年金を包括的に規制する米国連邦法。
 ・投資マネージャー、アセットオーナー、定期的に投資アドバイスを行う者は年金受給者に対してfiduciary(受託者)となり直接義務を負う。

(*)エリサ法におけるfiduciary dutyとは、最終受益者の利益のためだけに各種義務を果たすことに加えて、以下の義務を果たすことを指す。
 ①忠実義務(専ら最終受益者に利益を与え,年金プランの管理費用を合理的なものとすること)
 ②注意義務(同等の能力を有し,同様な事情に精通している思慮深い者が,当該状況において用いることとなる配慮、技能、思慮深さ、熱心さをもって職務を遂行すること)
 ③分散投資義務(リスク回避のために,その行う投資を分散させること)
 ④規約遵守義務(年金プランに関連する規約を遵守すること)

2.米国労働省(DOL)フィデューシャリー・ルール案(2016年)※2017年4月以降の施行を予定

●問題意識・改正の目的
 現状、エリサ法における「フィデューシャリー」に該当する投資アドバイス提供者の範囲が狭く、投資家に対する利益相反行為等からの保護が不十分。

●改正案の概要
 フィデューシャリーの範囲を見直し、定期的でなくとも、年金受給者に投資に関するアドバイスや推奨を行う者は、原則としてフィデューシャリーに該当する。
 その結果、ブローカー(売買の仲介をする人)・ディーラー(販売業者)等も、フィデューシャリー・デューティーが課されることとなる。

3.英国ケイ・レビュー(The Kay Review(2012年))(ジョン・ケイ教授のレポート)

原則5
 インベストメント・チェーンの全参加者(販売・助言・商品開発・資産管理・運用・その他)が、顧客との関係においてfiduciary standardsを遵守すべき。
fiduciary standardsとして、以下の事項を求める。
 ①顧客の利益を最優先すること
 ②利益相反状態を避けるべきこと
 ③提供するサービスに対するコストが合理的であり、かつ、開示されるべきであること

提言7
 欧州連合及び各国の規制当局は、他人の投資に関する裁量権を持ち、又は投資の意思決定に関し助言を行うインベストメント・チェーンの全関係者にfiduciary standardsを適用すべき。



以上、金融庁の説明資料を引用しました。

 インベストメント・チェーンに含まれる全ての金融機関が、顧客の利益のために行動することが重要とされてきています。
しかしながら、我が国において顧客の為の商品と販売を実践しているかと言えば、はなはだ疑問です。
例えば、国内の家計の金融資産が金融投資に向かわない理由の一つにもなりますが、米国と比べて金融機関が提供する投資信託の収益率の低さがあると思います。米国の売れ筋がロングセラーの低コスト商品であるのに比べて、日本の売れ筋がアクティブ運用で毎月分配型の販売手数料・信託報酬の高い商品です。その事からも顧客の為の商品・販売ではなく、金融機関の為の商品と販売であると言わざるを得ません。

 フィデューシャリー・デューティーは法律ではなく法を超えた倫理規範を求めるものです。倫理規範として国内の金融機関が取るべき行動は、自分たちの利益だけではなく顧客の為に何が出来るかを真剣に考え実行する事が大事です。

 私もFPとして顧客の為になる事を軸にして活動していきます。

北條 文明 2016年08月30日