家庭経済の耳寄り情報

2015年09月10日

世界市場を揺さぶる中国元の引き下げ

 8月11日の朝、何の前触れもなく、中国人民銀行は「人民元の実効為替レートは各種通貨に対して高い」と声明、3日間で4.5%も切り下げました。世界の株価市場は、人民元の切り下げに踏み切った11日以降記録的な連鎖株安となり、下落幅はリーマンショック直後以来の大きさとなりました。

今回の人民元の切り下げの背景には、国際通貨基金(IMF)が準備資産であるSDR(特別引き出し権)の5年に一度の見直しを年末に控え、中国政府が、ドル、ユーロ、ポンド、円、に次ぐ第5のSDR構成通貨として元を採用するようIMFに働きかけていましたが、IMFは4日の報告書で、中国元を採用する際には為替レートの決定方法が問題になると指摘したことがあります。このことが、中国元を切り下げる口実を作ったとも言えます。

もともと、中国人民元は歴史的に「変動」と「固定」を繰り返していました。人民元相場は1994年の通貨改革を経て、アジア通貨危機後の97年から2005年7月までは米ドルと連動、為替レートをほぼ一定に固定していました。
ところが、05年7月人民元は一定の範囲内で変動を認める管理変動相場制に移行され、対ドルでは中国人民銀行が毎日発表する基準値から上下2%の変動を認め、その基準値は、銀行から聞き取った相場に基づき中国人民銀行が決めていました。
しかし、実際の決め方は中国人民銀行の裁量が大きく、市場の実勢と基準値がかけ離れる矛盾が膨らんできていました。

そして、リーマンショック後は再びドル相場に固定、ドル高とともに徐々に元高が進んでいましたが、この度、「基準値は前日の市場の終値を参考にする」と宣言、4.5%切り下げを始めました。IMFは「歓迎すべき一歩」と評価していますが「管理された自由化」である点は変わりありません。

 今回の切り下げにより、「中国景気は想像以上に悪いのではないか」「通貨安競争が始まるのでは」と、疑心暗鬼と不安が、世界の市場を駆け巡り、18日から26日にかけて上海市場は-27%、米ダウ平均-11%、日経平均-14%と世界的な株安となってしまいました。

もともと、中国の株式市場では、売買の8割以上を個人投資家が占めていて、中国政府の株高政策を信じて積極的に買いまくった結果、人為的に吊り上げられた側面があり、今回、意外なほどもろくも露呈することになってしまいました。

その後、中国のなりふり構わぬ株価下支え策がとりあえず功を奏す形になって、25日を境に上海市場をはじめ世界の株価は上昇に転じ急反発していますが、中国の上海総合指数は、6月12日に直近のピーク(5,166)を付けた後、3割も下落し先行きの不確実性を高める状況は変わりません。

この度の中国当局のなりふり構わぬ株価維持策は、中国では、上場企業の都合で簡単に売買停止ができる市場であることを世界に知らしめてしまい、その代償はあまりにも大きなものになりそうです。

また、中国景気は予想以上に減速しているのではないかとの懸念が広がっています。中国国家統計局は7月16日、今年4~6月期の実質GDP成長率を前年同期比7.0%と発表しましたが、中国政府の発表する数字をそのまま信じる人は少なく、市場では低調な輸出などから、記者会見で「中国の経済成長率は過大評価させているのではないか」との質問が出るほどでした。

 中国の産業の実態を見ると、自動車の販売台数は失速の状態で、中国の自動車業界団体の中国汽車工業協会は、15年の自動車販売の伸びについて、中国の国内総生産(GDP)成長率と同程度の7%を見込んでいましたが、成長の勢いは急速に失われ、速報値によれば、15年上期(1~6月)の実績は前年同期比2.64%増、販売が1.43%増となっています。13年の販売台数の伸びが13.85%であったことと比較して、一段と冷え込んでいる状況がうかがえます。

鉄鋼についても、景気減速で需要が減少に転じた結果、過剰供給となり、その過剰供給の解消が進まないなかで、中国が鋼材の海外輸出を加速させ、価格の暴落を引き起こしている状況です。

 これまで、中国は安い人件費を背景に世界の工場として、世界経済を牽引してきましたが、今やその役割は東南アジア諸国にとって代わられようとしていて、かつての日本のように抜本的な構造改革を迫られています。
中国の今後の改革の行方次第によっては、世界経済が受ける影響は限りないと懸念されます。

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土井 健司 2015年09月10日