家庭経済の耳寄り情報

2022年12月10日

人生100年時代の主役である高校生・大学生の皆さんに本当に必要な金融教育を考える

思い描いた理想のキャリアを歩んで30歳を迎えたのに、その時の金融資産が赤字になってしまう。
これは、とあるインターンシップに臨む大学生の方々に実施した研修プログラムでの出来事です。事前に30歳までのキャリアプランと望む生活を描いていただき、それを実現した場合の給与や生活費などをもとに、収支をシミュレーションするプログラムを受けていただきましたが、半数以上の方は赤字に。インターンシップに参加される意欲の高い学生のみなさんにとっては驚きが大きかったようです。

実際のプログラムでは、生活費用のデータ(家賃・食費・水道光熱費などの統計値)と共に大学新卒者の業種別初任給データを提供しています。厚生労働省の調査によれば、2000年から2019年までの20年間で見ると、2019年は男性21万2800円、女性20万6900円(2000年比で男性は108%、女性は110%)、思った以上に伸びていないことがわかります。(ちなみにプログラムでは年率1.5%、20年で約120%になるように計算いただきました)。

加えて奨学金の返済です。日本学生支援機構では、貸与奨学金の返済例として、国公立大学に進学・下宿や一人暮らし(自宅外)の方で無利息の第一種奨学金を最大限借りることができた場合を以下のように提示しています。
月額の奨学金 5万1000円(4年間で244万8000円が貸与)
社会人になってからの返済額 年間16万3200万円。(15年間での返済)
私立であれば、学費も高くなるため、奨学金の額も高くなりますが、当然返済金も多くなることに。利息はあれば尚更ですが、データで見る初任給の水準から考えると重い金額です。
(なお平成29年度から第一種奨学金を借り始めた方は、卒業後の年収に応じて毎年の返済額が決まる所得連動返還方式が選択できるようになっています)

キャリアコンサルタントとして、大学でのキャリア教育のサポートでも活動していますが、金融に関する知識や税金・社会保険などの理解など、キャリア教育と組み合わせて行った方が良いのではないかと考えるキッカケになりました。

私は、人生100年時代が中高年のためのテーマのように伝えられることに違和感を覚えています。「LIFE SHIFT」(リンダ・グラットン氏著)で提示されたこのキーワードは、長寿化によって「教育」「仕事」「引退」という3つのステージで人生を生きるロールモデルからの脱却が本来の意図です。中でも、日本では2007年に誕生した子供(現時点で15歳)の半数が107歳まで生きるという推計データは、この世代が人生100年時代の主役であり、親世代とはまったく異なる人生設計が必要になることを示しているからです。

一方で親世代にも「仕事」を見つめ直す変化が求められています。日本では長い間仕事=キャリアの設計は会社に委ね、組織にとって最適な人材として活躍することが当然と考えられて来ましたが、2016年の職業能力開発推進法の改正により、自律的なキャリア開発とキャリア選択は社員の責任と定め、その支援を会社に義務として求めています。遅ればせながらという気もしますが、11月下旬、政府がリスキリング(学び直し)支援に5年で1兆円を配分する計画を公表しています。

いまの高校生・大学生が社会で活躍する環境は、いずれ、自身のキャリアを自らデザインし、学び直し(リカレント教育・リスキリング)は当たり前、転職して新しい仕事にチャレンジする、専門性を高めて起業するのも当たり前になる、多様なステージを歩む100年になるはずです。あとは、それを支える教育はどこまで充実できるのか。
すでに始まっている高校年代からのキャリア教育、消費者として家計やクレジットカードの仕組みなどの基礎知識を学ぶ金融教育にとどまらず、なりたい自分を具体化するためのマネープランを立てる基礎知識や判断力が不可欠になってきているのではないでしょうか。

長尾 孝士 2022年12月10日