家庭経済の耳寄り情報

2023年06月10日

遺言書作成の重要性

 遺言書を作成しているかというアンケートを日本財団が2021年に行ったところ、現在95%以上の人が未作成、作成していると答えた人は3.4%と少ない数値結果が出ました。
なぜ作成しないのかというと「手間がかかる」「法定相続分で分けてもらえばいい」「家族の仲が良いから揉める事はない」そう思っている人は多いようです。しかし、本当に揉めないでしょうか。

 調停件数は年々増加している傾向にあり、令和3年の「司法統計年報」では1万3565件を超えています。
資産別でトラブルが起こっている人たちをみたとき「我が家には資産、財産がない。富裕層の話だから関係ない」と思ったらそれは間違いです。トラブルを起こしている人たちの約80%が5000万円以下と一番多くを占め、さらに34%は1000万以下です。

遺産分割事件のうち認容・調停成立件数(「分割をしない」を除く)遺産の内容別遺産の価額別
出典:司法統計情報 年報 詳細検索条件指定画面
https://www.courts.go.jp/app/sihotokei_jp/list_detail?page=15&filter%5Bkeyword3%5D%5B0%5D=7&filter%5Btype%5D=1(2023年6月6日に利用)
上記サイトの「第52表  遺産分割事件のうち認容・調停成立件数(「分割をしない」を除く) 遺産の内容別遺産の価額別  全家庭裁判所」にあるExcelデータをもとに筆者がグラフ化


 それでは調停申し込みを行なった場合審判までにどれほどの時間を要するのでしょうか。
 1年以内に家庭裁判所での審理を終えた件数は8694件と全体の約70%です。
これを「1年以内に終わる」と思えるでしょうか。家族と揉めて家庭裁判所で争い、家族の仲に亀裂を生じさせている行為を1年も行うことになります。ですが、全体の30%については1年を超えて家族と争う人もいます。

 そしてこれは、調停を申し立てるまでの期間を考慮していないため、ある程度の期間経過の後に調停になったと考えると、相続発生からの期間はさらに長くなっています。
相続税申告期限は相続開始から10か月と定められています。この間に申告を行わない場合、相続税額が減額できる「配偶者の税額減税」「小規模宅地等の特例」といった特例が適用不可になってしまい、無申告加算税や延滞税のペナルティも科されます。

 調停を行った場合、相続発生時から1年を超えることも起こりうる為に特例を適用することができずに多額の相続税を負担せざるを得ない事案が相当数あります。

 その一方で作成の意向はあると70%の人が思っています。それはなぜか「誰に何を相続させるか」という事を考えているからです。そして作成者の半数は「気持ちの整理になった」と思っているようです。他にも「自分の財産の使い道を自分の意思で決められた」「老後・死後の不安が減った」と前向きな回答が多く見られました。

 トラブルを防ぐためには、相続トラブルはいつでも、誰にでも起こるという事を意識しておくことが重要です。「我が家に限って・・・」は通用しません。

 多くの人たちが作成しない遺言書ですが、多くの人は「誰に何を相続させたい」という意向を持っています。それを叶える為には、遺言書作成は死後の意思表示です。
死後に慈善団体に寄付する事も、家族が争わないようにする事もあなたの意思表示一つでできるのです。

 アンケートの中に「遺言書の書き方がわからないから」というものもありました。確かに遺言書を書けば揉め事がなくなるかもしれませんが、書いた事によってトラブルを引き起こしてしまう場合があります。
そのような事を防ぐためにも遺言書の内容について専門家にアドバイスを求める事も重要です。

 自分が亡くなった後のことはどうなろうと気にならないからというのは、確かに本人はもう関与する事はないかもしれませんが、遺された者が残した物で争いを起こしていいものなのかを少し考えてもらいたいものです。

 年間140万人ほどの死亡者数から見れば調停数1万3000件超は1%に過ぎないと思うかもしれませんが、司法介入が必要な紛争の中で裁判所が関与するのは2割程度という「二割司法(*)」という言葉があるようで、目に見えた2割の調停申し込みと、目に見えていない(調停申し込み)残り8割を合わせるとトラブルを抱えているのは14万件程度になり、10%になっている可能性もあります。その中の半分の6万件ほどが司法介入の必要な「争族」になっているという記事を目にしたこともあります。

*弁護士業界では、国民の2割しか満足な司法サービスを受けられておらず、残りの8割は法的な支援を受けられずに泣き寝入りをしている状態を、『二割司法』と呼んでいます。

齋藤 淳 2023年06月10日