家庭経済の耳寄り情報

2023年09月10日

金利のしくみ

 今年の4月に日本銀行総裁が植田総裁となり、今後の金利がどのように変化していくか、関心が高まっています。そのような時、金利の決まり方はどのようなしくみなのか。基本的なことがわかっていないことを痛切に感じています。そのことから、金利の決定のしくみを基本的なことから、確認していきたいと思い、知識の整理のため書いてみました。お読みいただく方の少しでもお力になればと考えます。

1.金利とは
 金利とは、お金を貸したり借りたりしたときの料金のことです。
昔は、米やその種を貸借して貸借料を得たり、払ったりしていました。それは、今の社会でも、お金の貸借のしくみでも同じといえます。
住宅ローンを例にお金の貸借を考えると、住宅購入資金3,000万円とすると、貯金1,000万円の人は、不足分2,000万円を銀行から住宅ローンで借ります。
個人は何かの目的を達成するため、お金が必要なとき銀行からお金を借りることができます。その時、お金の賃借料(金利)を支払います。
お金を借りるしくみがあるからこそ、高価なものを購入することができ豊かな生活ができます。つまり、経済を活発にしているのが、金利のしくみです。

2.金利の変動の影響(個人)
 金利が上昇すれば、住宅ローンの利用者は困ります。
金利が上昇して毎月返済額が2~3万円上がれば、家計にとっては痛手です。
金利が上昇すると変動金利型商品を所有している人は得します。
昔は、老後生活者は金利が上がれば、喜びましたが、最近の超低金利では、金利収入にほとんどないと不安になっている方が多くなっています。
思いつくままに挙げれば、たくさんありますが、代表的なものでもこれだけあります。
金利は、日常生活に密接に結びついているのです。その金利を決めている金融市場について、これから説明いたします。

3.金利を決める金融市場の基本的しくみ
 金融市場は、単純化すれば、お金の貸し手と借り手がお金を融通し合う場所です。銀行や不特定多数の金融機関が日々、金融市場でお金のやり取りをしています。
金融市場は短期金融市場(1年以下の取引)と長期金融市場(1年超の取引)があります。

(1)短期金融市場
 短期金利は、借りた翌日に返済する「翌日物(オーバーナイト物)」とそれ以外の「ターム物」に大きく分かれます。ターム物の代表的なものは、3カ月後に返済する「3カ月物」です。
短期金融市場には、インターバンク市場、オープン市場があります。
インターバンク市場は銀行や証券会社などの金融機関だけが参加できます。
オープン市場は金融機関の他、商社等の大手事業法人地方自治体などが参加しています。参加者の間口が広いです。
インターバンク市場の中心は「コール市場」です。銀行は、短期的に資金が余ったり足りなくなったりする。コール市場は、銀行が短期的な資金の過不足を調整する場です。
コール市場の取引の中心は、「無担保コール翌日物(オーバーナイト物)」です。
無担保でお金を借りて、翌日に返す取引です。
短期金利の決まり方は、日本銀行(日銀)の金融政策に影響されています。
日銀は金融市場に対して「公開市場操作」(オペレーション)を行います。その目的は、「無担保コール翌日物金利」を日銀が目標とする金利水準に誘導することです。
こうした日銀が誘導目標とする金利を「政策金利」いいます。

(2)長期金融市場
 長期金融市場は債券を取引する「債券市場」です。債券市場は発行市場と流通市場があります。扱う債券は国債、社債、金融債等です。
長期金利は、その時の日銀の金融政策の影響を受けるとともに、将来の経済予想で決まることが多いです。

4.伝統的金融政策と非伝統的金融政策について
 ここまで、金利の決まり方の基本的しくみを書いてきました。これからは、基本的しくみから、現在の金融政策の現状を解説します。

(1)伝統的な金融政策
 かつての、行われた伝統的な金融政策には「公開市場操作」「公定歩合政策」「預金準備率操作」があります。
・「公開市場操作(オペレーション)」とは、金融市場に資金を供給したり、資金を吸収したりすることで、「無担保コール翌日物金利」誘導目標に近づける方法です。日銀が金融機関に資金を貸し付けたり、国債を買い入れたりすることで市場に資金を供給するオペレーションと、資金を吸収するオペレーションに分かれます。公開市場操作は、金融機関が日銀に預ける当座預金をオペレーションで増減させることで、金融機関が日々の資金を調達する際の金利を誘導していました。2013年に始めた異次元緩和では、政策目標を日銀が市場に直接供給するマネーの量に切り替え、国債購入などで大量の資金を供給してさらなる緩和効果を狙いました。※1
・「公定歩合政策」は、日本銀行が公定歩合を上げ下げして、民間銀行向けの貸出金を増減させ、結果的に通貨供給量も増減させる方法です。
しかし、1994年(平成6年)に金利自由化が完了し、「公定歩合」と預金金利との直接的な連動性はなくなりました。かつての「公定歩合」は、現在、「基準貸付利率」呼ばれ、「補完的貸付制度※2」の適用金利として、無担保コールレート(オーバーナイト物)の上限を画する役割を担っています。
・「預金準備率操作」は、民間銀行は、預かっている預金の一定の率以上の金額を、日銀内の当座預金口座に預け入れることが義務づけられています。この義務を「準備預金制度」といいます。一定の率を「預金準備率」といいます。
しかしながら、1991年10月が最後で、「預金準備率操作」は金融政策の主な手段から外れました。

(2)非伝統的金融政策

① 量的緩和政策
2001年3月に日本銀行は、これまでの金融政策の誘導目標を無担保コール翌日物金利から日銀の当座預金残高とする政策を導入しました。
そうした政策の枠組みを「消費者物価指数の前年比上昇率が安定的にゼロ以上」になるまで継続する、とされました。
2010年10月に国債に加えてCPや社債、ETF、J-REITなども買い入れ対象とする「包括的な金融緩和政策」を導入しました。

② マイナス金利
・2016年1月「マイナス金利付き量的・質的金融緩和(マイナス金利政策)」導入。金融機関が中央銀行に有する当座預金口座の残高(の1部)に付する金利をマイナスにする措置です。
・2016年9月「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入。
(ア)「イールドカーブ※3・コントロール(長短金利操作)」
 まず短期金利は、マイナス金利政策を継続、当座預金の政策金利残高に▲0.1%のマイナス金利を適用。長期金利については、10年物国債利回りがゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買い入れを行っていきます。
(イ)「消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続する」という「オーバーシュート型コミットメント」です。
 量的緩和に金利コントロールが加わった金融政策の枠組みが出来上がりました。日銀は、マイナス金利政策と長期国債の買い入れを組み合わせた金融政策が2%の物価目標実現に有効としています。

 金利について、主に金融市場を主な視点でまとめてみました。金利の決まり方には、さらに多くの要素が他にもあり、たとえば「財政」とか、まだまだ考え方の整理には、多くの紙数が必要ですが、一応の一区切りつけて、本文を終了します。

※1金融市場調節方針の変遷
 2001年(平成13年)には「量的緩和政策」が開始され金融市場調節の主たる操作
目標は無担保コールレートから日本銀行当座預金残高に変更されました。量的緩和政策が解除されると、2006年3月に金融市場調節の操作目標は、再び無担保コールレート(オーバーナイト物)になりました。

※2 日銀が予め定めた条件(貸付期間を1営業日とする等)に基づき、貸付先からの利用申込みを受けて、担保の範囲内で受動的に実行する貸付制度であり、2001年(平成13年)2月に導入されました。本制度の対象先は、銀行、証券会社といった金融機関のうち、貸付先となることを希望する先で、信用力が十分であると日銀が認めた先です。

※3 イールドカーブとは、異なる期間の金利の水準を期間の短いほうから長いほうへと結んで、1つの線にしたグラフです。短期金利,国債の流通利回り、あるいは両方を利用して作成します。

氏家 勉 2023年09月10日