2024年05月10日
「安全な家」を考えるための5つのキーワード
令和6年元旦の夕方(正確には16時10分)、能登半島地方を中心に北陸4県や新潟県を襲った「令和6年能登半島地震」。消防庁の発表(4月2日現在)では、死者244人、重傷320人ときわめて深刻な人的被害をもたらしました。住宅・家屋の被害についても、全壊8,754棟、半壊18,974棟と報告されています。
地震発生直後から公共機関や大学等の専門家が現地に出向き被害状況を調査、報告書にまとめています。
以下は、東北大学(災害科学国際研究所)の研究者ら4名が穴水町と七尾市で1月4日~5日にかけて行った建物被害調査のレポートの一部を要約したものです。
●地震の特性
・能登半島全域で震度6以上の揺れを観測。
・穴水町や珠洲市で周期1~2秒の強い揺れを観測。
・震源が直下の浅い場所⇒低層建物(特に古い木造家屋)への被害大と推定。
●木造家屋の被害の特徴
・既存不適格建物(旧耐震・2000年基準以前)の倒壊。
・過去(2023年、2007年)以前の被害の影響(筆者注・ダメージの蓄積の意と思われる)。
出所:東北大学災害科学国際研究所「令和6年能登半島地震現地調査報告 ~建物被害の概要~」2024年1月9日開催:令和6年能登半島地震に関する速報会公開資料
URL: Noto-eq_debrief0109_1-3_enokida.pdf (tohoku.ac.jp) 2024年5月13日閲覧
この中に、住宅の安全にかかわる重要なキーワードが3つほど含まれています。
キーワード①:キラーパルス
レポートにある「周期1~2秒の強い揺れ」は、「キラーパルス」と呼ばれます。木造住宅など低層建築物と共振しやすい、すなわち被害が大きくなりやすいといわれています。
一般に規模の大きい地震は周期が数秒から10秒程度の長周期振動が発生しやすいといわれ、2011年の東日本大震災、古くは関東大震災でも計測されています。一方「キラーパルス」は、1995年の阪神淡路大震災、最近では2016年の熊本地震で計測されています。
出所:「地震がわかる!Q&ampA」P15 文部科学省 研究開発局 地震・防災研究課
URL: https://www.jishin.go.jp/main/pamphlet/wakaru_qa/index.htm 2024年5月13日閲覧
キーワード②~④:旧耐震、新耐震、2000年基準
いずれも建築基準法に関係した用語です。建築基準法は1981年(昭和56年)に大改正が行われ、この時の耐震性に関する改正内容が「新耐震」、改正前の基準がレポートにある「旧耐震」と呼ばれるものです(新といっても40年以上経過していることになります)。その後1995年(平成7年)の阪神淡路大震災の被害状況をふまえて見地基準法が大きく改正され耐震基準がさらに厳格化されました。これが「2000年基準」と呼ばれるものです。
調査レポートから、倒壊した住宅には、1970年代までの「旧耐震」基準の時代に建てられたものに加え、1980年代~90年代(新耐震基準制度後だが2000年基準制定前)に建てられたものも含まれていたことがわかります。
キーワード➄:耐震等級
建築基準法は、建築関係で最も基本的かつ重要な法律です。1950年(昭和25年)に制定され、現在までに数多くの改正が重ねられてきました。住宅の規制法という観点でみると、大地震・大震災の発生の都度、被害状況調査をもとに耐震基準が厳格化されてきたという経緯があります。
出所:筆者作成
「住宅品確法」(正式名称は「住宅の品質の確保の促進等に関する法律」)とは、表にあるように「3本柱」となる3つの制度によって消費者(施主・買主)を保護し住宅市場の健全な発展をはかる趣旨で1999年に成立、翌2000年に施行された法律です。
表の最後にある「耐震等級」は、住宅品確法で定められている耐震性能のランクです。
等級は1から3まで3段階あり、具体的な内容は以下の通りです。
・等級1⇒建築基準法と同水準(震度6程度も即時に倒壊・崩壊しない水準)
・等級2⇒等級1の1.25倍の耐震性(病院や学校等避難所に求められる水準)
・等級3⇒等級1の1.5倍の耐震性(消防署や警察署等災害復興拠点に求められる水準)
耐震等級1(建築基準法レベル)と耐震等級3の違いを如実に表すのが下の棒グラフです。 2016年の熊本地震における住宅の被害状況の調査結果で、調査対象は震源地に近い益子町中部にある「2000年基準」制定以降に建てられた住宅です。
出所:「確かな性能・安心の住まいづくりをしませんか」(一社)住宅性能評価・表示協会
URL: https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001710995.pdf 2024年5月13日閲覧
左側が現行建築基準法(2000年基準)の住宅で60%は無被害である一方、30%強に被害(軽微・小破・中破)が発生、また6%強が大破または倒壊しています。
これに対し右側の耐震等級3の住宅では、無被害率は88%に上り、被害のあった12%も被害の程度が左側より軽く(軽微または小破のみ)なっていることがわかります。
耐震等級3の住宅は価格(建築費)も相応に高くなります。クルマの購入や保有に例えると、建築基準法は自動車の自賠責保険や車検・法定点検、これに対し先ほどとりあげた品確法は、任意保険や6か月ごとの自主点検に相当するといえるかもしれません。
令和6年は元旦以降国内外で大きな地震が発生しています。住宅取得にあたり、改めてこうした耐震性能の基本的な用語を理解し、購入の判断材料のひとつとすることが必要といえるのではないでしょうか
杉野 俊哉 2024年05月13日