2024年12月10日
発達障害の子供への相続を考える
障害のあるお子さんへの相続を考えるとき、親御さんの想いをどう具現化すればいいのでしょうか。
親がいなくても生活できるだけの財産をどう残してやれるのか、子供は相続したその財産を生活していく上できちんと管理できるのか。
不安はあるけれども具体的には何をすればいいのか、親としての心配は色々とつきませんが、まだ元気なうちにどのような方策が考えられるのかを検討し、準備・実行できる事柄には着手することが重要ではないでしょうか。
(1)発達障害について
発達障害とは、脳の神経ネットワークの発達が通常と異なることで生活に支障が出る、生まれつきの特性です。
コミュニケーションがうまくとれない、注意力が散漫で学業や仕事に集中できない、
読む・書く・計算する等の能力が極端に苦手などの特徴があり、この特性に悩む人は近年増え続けているというデータもあります。
(2)子供にお金を残すためには
親亡き後の子供の将来を考えると、障害のあるわが子には財産は法定相続分より多く相続させたい、と考える親御さんは多いと思います。
我が家は家族仲もいいし、他の子供たちも障害のある兄弟を昔から思いやってくれているので、その子に多めに財産を残したいと口頭で言っておけば、理解してくれると親は思っているかもしれません。しかし、お金の問題はそうはいかないことも多いのです。
そこで遺言書を作成しておくことが重要になります。
遺言書がないと相続人全員による遺産分割協議を行うことになりますが、相続人に判断能力が不十分な障害者(通常発達障害者も該当する)が含まれる場合、遺産分割協議は成立しません。
遺言書があれば遺産分割協議書の作成は必要なく、遺産相続がスムーズに行われ、親の想いが叶うことにもなるでしょう。
遺言書には主に自筆証書遺言と公正証書遺言がありますが、自筆証書遺言は財産目録のパソコン作成が認められたり、法務局での保管制度が創設されたりと、近年より使い易さを目的とした改正が行われました。
遺言書は元気なうちに書いておくことが重要です。家族ともよく話し合い、事前に全員が納得したうえで作成する配慮も必要になります。
(3)残したお金を子供のために有効に管理するには
いくらお金を残せても、子供がそのお金を適切に管理する、生活する上できちんと使うことができなければ何にもなりません。
ここではその方法として、以下の3点を挙げてみます。
① 成年後見制度を利用する
判断能力が不十分な人に代わって、金銭の管理や入所施設の契約手続きなどを行う制度です。
大きく法定後見制度と任意後見制度があります。前者が既に判断能力が低下している人に対して裁判所が後見人を決めるのに対して、後者は将来に備えてあらかじめ契約しておくという違いがあります。
発達障害がある人には法定後見人を付けるのが一般的ですが、将来後見する内容を契約で比較的自由に決めておける任意後見制度も、選択肢に入れておくべきと思われます。
② 信託の活用を考える
自分の財産を信頼できる人や信託銀行等(受託者)に託し、必要な人(受益者)のために管理・運用してもらう制度です。
受託者として安心して任せられる親族がいる場合は家族信託が考えられ、また贈与税の非課税枠がある特定贈与信託や、受取人固有の財産となる生命保険を活用した生命保険信託などもあります。
信託を利用すれば、障害のある子供に定期的に生活費を渡せるなど、信託契約の範囲内で、親亡き後も柔軟な財産管理が行えるメリットがあります。
③ 日常生活自立支援制度を利用する
地域の社会福祉協議会が窓口になり、自分一人での契約に不安がある方や、お金の管理に困っている人が利用できる制度です。
個々のサービスは比較的低価格で利用できますが、利用者本人が直接契約を結ぶ必要があるので、それなりの判断能力がある人が前提になります。
(4)相続の前にも考えておくことはある
親亡き後、障害のある我が子に財産を残すことは重要ですが、相続の前に親として考えておくべきことも色々とあります。
大切なのは、親亡き後、幸せに暮らしていくために必要なことは何かを見据え、それに沿ったライフプランを想定し、それを可能にする経済的な裏付けを考えることではないでしょうか(場合によっては、子供にはお金は残さないという選択肢もあるかもしれません)。
そのためには先ずは生活の場を考え、次に日常のサポートを誰にどう託すのか、また地域や自治体の福祉サービス・施設等の利用方法も頭に入れておく必要があります。自治体のサービス等も次第に充実してきていますが、こちらから申請しなければ利用できないので、しっかりした知識が求められます。
冒頭でも述べたように、これらの事柄を元気なうちに考え準備していくことが、障害のあるわが子への相続の第一歩になると思います。
堀内 善彦 2024年12月10日