家庭経済の耳寄り情報

2012年05月20日

老齢基礎年金の繰上げ支給について

 「私は主婦ですが、老齢基礎年金を繰り上げて、受け取りたいと思います。問題点を教えてください」という問いかけをよくいただきます。ご一緒に考えてみましょう。

老齢基礎年金の繰り上げは慎重になさってください。以下理由を述べてみます。

老齢基礎年金(国民年金)の繰上げの仕組み

老齢基礎年金は原則65歳の支給開始です。しかし本人の希望により65歳前に繰り上げて受給することもできます。この場合、65歳支給開始年金額を基礎として、一定率で減額されます。
昭和16年4月2日以後生まれの人は月を単位として調整されます。つまり本来の年金額に比べて、1月繰り上げるごとに、0.5%減額された金額が一生涯支給されます。

減額率=0.5%×繰り上げ月数

●60歳0ヶ月で請求すると、60ヶ月の繰上げで、
0.5%×60ヶ月=30%の減額 となります。   
60歳~64歳の間はもともと基礎年金がゼロですが繰り上げにより、

788,900円〈23年度分老齢基礎年金満額〉×0.7(30%減額された後)×5年間=2,761,150円・・・①

が給付されます。 これが繰上げのメリットです。

●65歳~88歳(60歳の女性の平均余命)では

788,900円×-0.3(減額される分)×23年=-5,443,410円・・・②
となる。

合計では
①+②=2,761,150円-5,443,410円=-2,682,260円
になります。

つまり5年早く受け取っても、生涯では2,682,260円を損失します。
したがって 
a)60~64歳の生活がどうしても苦しい方
b)長生きできそうにない方(金額的には72~73歳くらいで死亡すると損得ありません)
でない限り老齢基礎年金の繰上げはおすすめできません。

老齢基礎年金(国民年金)の繰上げ注意点

(1)一度繰り上げ請求をすると、取り消しや変更はできず、生涯減額された年金が支給され、付加年金も同じ率で減額されます。

(2)夫が自営業で、老齢基礎年金の資格期間を満たした夫が亡くなり、妻が寡婦になった場合、繰上げ受給をした時は、寡婦年金(60歳~64歳の間、夫の老齢基礎年金の3/4の額)は支給されません。

788,900円×(-3/4×5年)=-2,958,375円・・・③

①+③=2,761,150円-2,958,375円=-197,225円

となり繰上げはまったく意味がなくなります。

(3)妻が65歳までに病気や怪我で重度の障害を受けた場合でも、繰上げ受給をした場合、障害基礎年金は支給されません。
        
(4)妻が65歳までに、会社員であった夫が亡くなり、遺族厚生年金が受けられるようになった場合、65歳までの間は、繰上げした老齢基礎年金か遺族厚生年金のどちらかの年金しか受給されません。65歳以後は遺族厚生年金と減額された老齢基礎年金を受け取ることになります。

(5)老齢基礎年金の全部繰り上げ支給を選択した場合、60歳台前半の定額部分は支給停止となります。

繰り上げ支給の申請はいつでもできますが、よく考えて行いましょう。

岡野 征治  2012年05月20日