家庭経済の耳寄り情報

2012年08月10日

現在の円高は日本人にとって良いことでしょうか?

 現在、対米ドルに対して円高が進んで1米ドル70円台後半で推移しています。円高では円が対米ドルに対して相対的に強くなることになりますので、同じ円でもより多くの米ドル商品が買えるようになります。 
これは、輸入品であれば安く買えることを意味しています。今の日本は食料品や衣料雑貨品を中心とした消費財は大部分を輸入に頼っていますので、物価は次第に安くなってきます。物価が次第に安くなってくると、早く買った方が損になるので、みんな買い控えるようになり更に価格は下がります。
この状態がデフレです。この様なデフレ状態の時は一般的に資産家や年金受給者は手持ちの円資産が強くなるのでフォローの風です。

 一方、若い労働者にとって、デフレは物が売れない時代ですから、企業の国内生産が落ち、輸出競争力を高めるため企業の海外移転が進みます。国内の労働市場は縮小し、失業率が高まり、給与収入は減少傾向となります。

 この様に、今の日本はバブル崩壊後、特に2000年代ほぼデフレに近い状態が長期に続いていますので、若者と年輩者の格差が徐々に拡大してきたといえます。

 それでは、逆に、これから徐々に円安に進んでいった場合はどうなるでしょうか?円安になると輸出競争力が高まり、輸出企業はよりたくさん物が売れて、より多く儲かるようになります。海外に進出していた企業は国内に戻り、国内生産が拡大し、求人は増え若者労働者の収入は増えていき、消費需要も高まり景気は回復してゆきます。景気回復の過程で、物価が上昇してくると早く買った方が得をしますので、更に物の不足を招き生産は拡大していきインフレ状態となります。

 一方、この様なインフレ状態の時は年金受給者にとって、相対的に円の価値の下落の影響を受けやすくなります。また、資産家は円資産が目減りしますので、積極的に投資に資金を向けるようになります。企業の設備投資は活発になり、株価上昇に一役買ってくるようになるでしょう。
このような状態では、若者にとって円安が一般的にフォローの風となり、結果的に世代間の資産移転が進んでくる可能性があります。

 一方、国の財政は今や破綻状態に近づいています。円安になりインフレ状態になると、金利は上昇し国債(国の借金)の利払いも増えますが、貨幣価値が下がりますから、相対的に国の借金は減る状態になります。
結果的に、国力に比べて相対的に高すぎる円高は、国の衰退の原因になっている側面をも持ち合わせています。ただし、急速なインフレはハイパーインフレの状態となり国民生活が大きな混乱に陥ります。

 お隣の韓国では、97年の通貨危機で非常な混乱に遭遇しました。通貨危機が起こり、ウォンは3分の1になり、物価は高騰、株価も3分の1、失業率は3倍、街には失業者であふれ韓国の国民は地獄を見ました。その韓国が、今や元気になっています。その原因は、ウォン安です。ウォンの大幅安により国際競争力を回復し、国力を取り戻しました。

 この様な事から、現代のようにグローバル化した世界経済の中では、為替の問題は国民にとって、切っても切り離せない密接な関係となっていると言えます。

土井 健司  2012年08月10日