2016年07月30日
遺産分割対策 ~生命保険を活用した相続対策の一つ~
最高裁判所の「司法統計年報」H26によると、遺産分割事件で最も多いのは「遺産価額が5000万円以下1000万円超 43%で次に多いのは1000万円以下 32%というデータがあります。
財産が多いから揉めるのではなく、少なくても揉めるケースは多いということです。感情のもつれから殺人事件にまで発展するケースもあります。どう円満に分けるのか一緒に考えてみましょう。
実際に財産を分けるには、現物分割、換価分割、代償分割の3つの方法があります。
現物分割・換価分割(注1)が難しい下記の事例のケースで検討してみます。
父の財産が店舗兼自宅(相続税評価額1億円)のみで相続人である兄弟が2人いた場合における生命保険を活用した代償分割(注2)を検討します。代償分割を行うには、遺産分割協議書にその旨を盛り込む等の手続きが必要です。
*被相続人(亡くなった人)。相続人とは、被相続人の財産を引き継ぐことのできる一定の範囲の人のこと。
① 代償分割でないケース
父(被相続人)が生命保険に加入、受取人は弟。
遺言により、兄には店舗兼自宅を、弟には同価値程度の生命保険を渡すことにする。兄に店舗兼自宅1億円が相続されるが、弟に対しては、契約者・被保険者を父とし死亡保険金受取人を弟とした生命保険(終身保険)保険金額1億円の契約をします。父は、兄弟に実質的に平等に相続させることができると思うでしょう。
その生命保険金は、受取人(弟)固有の財産となり、遺産分割協議の対象になる遺産には含まれません。(注3) 生命保険金は「みなし相続財産」であり本来の相続財産ではないため、弟は受け取った保険金の他に本来の相続財産に対する遺留分の減殺請求(注4)を行うことができます。
これを回避するためには、弟に「遺留分の放棄の申し立て」を家庭裁判所にしてもらうことが考えられます。
かなりややこしくなりますので、この方法(生命保険の契約形態)は避けたほうが良いと思います。実際には良く分からずに単純にこのような方法(生命保険の契約形態)が取られているケースが多いと思われます。遺留分の放棄の申し立てが必要であるなんて想像もつかないでしょう。なんと恐ろしいことでしょう。父親は、もめる要因を作って妻や子に相続させてはなりません。次に紹介する代償分割に該当する契約形態の生命保険にすべきでしょう。
② 代償分割プラン
店舗兼自宅は兄が相続し、兄から弟に店舗兼自宅の価値の半額程度の現金を渡す。但し、遺産分割後に兄が弟に現金を渡すと贈与になり、贈与税がかかる。そこで、兄が弟に現金を渡す行為を代償分割で行います。
兄が店舗兼自宅(1億円)を全て相続する。その代わり、兄は自分の現金5000万円を代償交付金として弟に支払います。兄は5000万円を相続したことになります。一方、弟は兄から5000万円の代償交付金を受け取るので、結果として兄と同額の5000万円を相続したことになります。このとき、弟に渡す財源を確保するために、どのような生命保険にすべきでしょうか!保険種類は、一生涯死亡保障のある終身保険です。
契約者、死亡保険金受取人は兄、被保険者(被相続人)父
父死亡時に、兄が契約者であり死亡保険金受取人になり、相続税の対象ではなく一時所得として、所得税・住民税が課税されます。
兄は、受け取った死亡保険金から所得税・住民税を支払いその残額を弟に渡すことができます。
ただ、兄に保険料支払いの資金余力のない場合、父より生命保険料相当額のお金を毎年生前贈与してもらい年払いの生命保険契約をするということも一つの方法です。
また、契約者・被保険者が父で、死亡保険受取人が兄の場合、死亡保険金は、みなし相続財産で、相続税の対象になりますが、本来の相続財産でありませんので、兄の固有財産となり代償分割のために活用できます。
このように、契約者を兄とするか、父とするかで一時所得税になるか相続税になるかの違いが有ります。生命保険金額は、いずれにしろ税金を考慮に入れて決定すべきです。
親の責任として揉める火種を残さないことが重要です。特別の理由のない限り、相続は法定相続となるケースが多いかと思います。
どのようにすれば被相続人の意向と相続人の思惑が争族にならないようになるのか家族でコミュニケーションを深めて頂きたく思います。
(注1)現物分割とは、個別特定財産について、その数量、金額、割合を定めて分割する方法。換価分割とは、共同相続人が相続によって取得した財産の全部又は一部を、現物で分割することに代え、それを金銭に換価しその換価代金を分割する方法。
(注2)代償分割とは、共同相続人のうち特定の者が被相続人の遺産を取得し(現物分割)、その代償としてその者が自己の固有財産を他の相続人に支払う方法。
(注3)生命保険金は特別受益になるかについて、H16.10.29の最高裁決定は、「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条(特別受益者の相続分)の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものと評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持ち戻しの対象となると解するのが相当である」としました。
(注4)遺留分とは、相続人のために残しておくべき最小限度の財産の割合。
遺言などで財産の処分を無制限に認めると、相続人間の公平を欠くことになるため、遺留分の制度が設けられている。この遺留分は被相続人の行う一定の贈与や遺贈に優先します。
遺留分の減殺請求とは、遺留分を持つ相続人は、認められた遺留分に達するまで、贈与や遺贈などを減殺して取り戻すことができること。この場合、弟は遺留分算定の基礎となる財産の1/4です。
佐藤 博明 2016年07月30日