家庭経済の耳寄り情報

2016年10月30日

退職金(60歳)で住宅ローンを完済は本当にいいのだろうか?

 60歳以降も常用労働として働いていくことが、一般的になってきています。こうした中で、退職金で住宅ローンをすべて充当する人が多いですが、資産運用やライフプランの観点から見直してみてはどうでしょうか。

 まず、高齢者の就業状況について、現状を見ましょう。今年度の『高齢社会白書』によると、男性の場合、就業者の割合は、60~64歳で72.2%、65~69歳で49.0%となっています。これを、雇用数でみると、60~64歳で438万人(前年447万人)、65~69歳で458万人(前年414万人)と増加いています。この背景には、健康年齢の上昇と高年齢者雇用安定法の実施により、①65歳まで定年年齢の引上げ②65歳までの継続雇用制度の導入③定年制の廃止が企業に義務付けられたことがあげられます。

 つぎに、退職金の使い方について、2つの事例を考えて見ましょう。前提の条件として、今年、60歳定年を迎え、退職金を1,500万円受取る予定です。退職時、住宅ローン残高が1,000万円(後10年返済)あったとします。さらに、退職後10年のうち、5年間は再雇用を考えています。

 ア. 退職金で住宅ローンを完済し、預金として500万円残す。
 イ. 退職金を金融資産として残し、住宅ローンは従来通りに返済していく。

  ア.の場合、金融資産500万円の増加があります。これを老後資金の一部に充当できます。従前の貯えがど
    れ位できているかも重要ですが、住宅の補修・改修あるいは入院等の一時支出に十分と言えるでしょ
    うか。
    65歳を過ぎてからは、新たな改築ローンや一消費ローンを組んだりすることは難しいです。
    《参考》
     500万円を1.0%で10年複利運用すると  5,525,000円
  イ.の場合、再雇用の収入の中で、住宅ローンの返済はかなり厳しいでしょうが、65歳からの年金生活の前
    哨戦として、生活のダウンサイジングをしていく良いチャンスだと思います。再雇用時の年収は、定年
    時の50~60%が平均となっているようです。
    さらに、65歳以降の厚生年金の平均的な受給額は月20~25万円となっています。
   《参考》
    1,500万円を1.00%で10年複利運用すると             16,575,000円
    1,000万円を1.06%(フラット35)で返済する 利息・元金合計金額 10,550,000円
                                 (毎月返済8.8万円)

 ア.イ.のいづれにも、メリット・ディメリットがあります。アは早く、ローン返済の負担感から解放されますが、金融資産があまり増えない。一方、イでは住宅ローンへ返済が残るが、団信がありリスクヘッジはされています。ローン返済を励みに生活を充実させていくといった良さはあります。毎月の収支の不足分については、それまでの金融資産を少しづつ取り崩していくことでカバーすることも可能でしょう。あるいは、60歳を機会に再就職や起業により、生活を大幅に変えてみる等色々と選択肢はあります。

 退職金といった、大きな金融資産を手にして、負債を減少させるということで良いのでしょうか。個人の財務諸表において、資産負債のバランスとキャッシュフローとの関係で見直してみては如何でしょうか。

 これらを検討していく前提としては、マイナス金利を背景にした低金利のうちに、住宅ローンを長期・固定金利で借入あるいは借換を行っておくことがポイントです。さらに、低金利の借入・借換により、毎月の返済金が減少した分を来年から導入される個人型確定拠出年金に回すのも一策と考えられます。

 従来、住宅ローンは60歳定年で終わらせるのが良いように言われてきました。しかし、この様な低金利時代の住宅ローンが定着してきたことから、これを活用したライフプランを再検討しては如何でしょうか。当然、雇用環境や経済状況の大きな流れだけでなく、定年延長、再雇用の拡大とインフレ率についてどのように捉えるかは、今後ますます、情報収集力と判断力が重要となります。

多胡 藤夫 2016年10月30日