2018年07月20日
偽装された自筆証書遺言
遺言書は後に書かれた遺言書が先に書かれた遺言書より優先する。というルールがありますが、これを巡ってトラブルになったケースをご紹介いたします。
A家では、長く長男と母親が同居していて、甲斐甲斐しく母親の面倒を長男が見ていました。そして、母親はあらかじめ「長男に自宅を相続させる」という内容の公正証書遺言も作成していました。事実関係からしてこの遺言書は客観的に誰もが文句の言いようのない遺言書でした。
ところが、いざ相続が始まると、長女が「お母さんは遺言書を書き直した」と言い出し、1通の自筆証書遺言書を持ち出してきたのです。そして、その遺言書には「相続財産は兄弟姉妹で均等に分けるように」と記されていました。
日付は公正証書遺言の後に作成されているものであることは明白でしたし、筆跡も母親のものに間違いはありませんでした。当然、遺言書が2通ある場合、あとに作成されたものが優先することになります。従って、自筆証書遺言の内容通り母親の残した財産は等しく分けられることになりました。家も売却し、その代金を皆で分配することになったので、長男は家を相続することはできませんでした。
ところがこの件は、実は表に出なかった事実が隠されていました。自筆遺言書が作成された当時、母親にはすでに認知症の症状が現れていたので、本来なら自らの意思でこのような遺言書をかけるはずがなかったのです。
ところが、長女が密かに自分の家に母親を呼び寄せ「私が言うとおりに書いてね」と言って遺言書を作らせていたのです。きっと、長女は公正証書遺言の内容に不満だったのでしょう。もちろん、遺言書の作成が母親の意思に従ったものではないことを証明できれば遺言は無効になったはずです。
しかし、現実は「偽造」の事実を証明する証拠を見つけ出すことは難しく、結局、長男はやむなく長年住み慣れた家を手放すことになってしまったのです。
土井 健司 2018年07月20日