2020年07月10日
コロナ禍と株主総会
2020年7月、何事もなければ東京オリンピックを目前に日本経済も株式市場も活況な日々があったのかもしれません。
1月の時点で隣国中国の都市で流行している新しい感染症が私たちの生活をこんなに大きく変革させると気づいていたのは一握りの人だったのでしょう。
2月に入りダイヤモンドプリンセス号が横浜に停留を始めた頃から、特に横浜ではコロナ感染症は他人事ではなくなりました。
そんな中、1月下旬、大手IT企業の在宅勤務を開始するとの報道を皮切りに、各企業のコロナ禍での事業の継続について新しい取り組みが企業に求められることになりました。
たった6か月の間で個人も企業も今まで当たり前が当たり前でなくなった2020年前半の出来事でした。
株主総会も例外ではありませんでした。
例年6月は3月決算の株式公開企業の定時株主総会が集中する月です。お土産を楽しみに株主総会に出席する方や、社長の今後に向けた事業の方向性等を伺い、今後の投資方針を決める場として株主総会に出席する投資家の方も多くいらっしゃったのではないでしょうか。
今年に限っては、経済産業省が4月上旬から企業に向けて株主総会開催について新型コロナウィルス感染拡大予防対策の指針を公表し、その後5月11日に株主総会への株主「来場禁止」容認の指針を一般に広く公表したことで、株主総会の当たり前が一瞬にして当たり前ではなくなってしまったのでした。
総会を開催する企業の4月から5月は、株主総会の招集通知の作成が佳境となる時期です。
企業としては、この株主の株主総会「来場禁止」容認の指針に安堵したとともに、前例のない株主総会開催をいかに開催するか頭を悩ませたのではないかと推察します。
また、株主総会は開催場所を必ず設定しなければならず、3月決算企業の総会が集中する6月は、どこの企業も相当期間前から総会場所を確保しています。ところが今年は確保した会場がコロナの感染拡大の影響で、招集通知発送直前まで使用が危ぶまれる状況だった企業もあったと聞いています。
さかのぼること6か月。2019年12月26日、経済産業省は今回のコロナ禍と全く関係なく、企業と株主・投資家の建設的な対話を促すための環境整備という視点で、新たな株主総会の形態として「ハイブリッド型バーチャル株主総会(*1)の実施ガイド」についての意見の募集を開始しました。意見を集約し2020年2月26日、企業がハイブリッド型バーチャル株主総会を実施する際の法的・実務的論点、及び具体的取扱いを明らかにする「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」の公表を行ったのでした。
このガイドの公表と株主総会の新型コロナウィルス感染拡大予防対策への指針を受け、本年、一部企業が開催した「ハイブリッド型バーチャル株主総会」に至ったのでした。
5月下旬から6月上旬になると定時株主総会の招集通知が届き始めました。招集通知には、多種多様な株主総会来場自粛についての案内文が同封されておりました。
株主総会は例年通り開催するもののお土産、懇親会を中止し来場自粛を強く求める会社、議決権行使を事前に行い総会会場に来場しない株主に粗品を後日送付する事を記載する会社、ハイブリット出席型バーチャル株主総会(*2)を開催する会社、事前質問を受け付けた上でハイブリット参加型バーチャル株主総会(*3)を開催する会社、総会の様子をライブ配信する会社等、総会開催方法も、同封された文章もさまざまでした。それぞれの案内文に株主総会開催に対する企業の姿勢と苦悩が表れているように思えました。
それらに目を通しながら、限られた準備期間の中で、株主・投資家との対話を忘れず、新しい株主総会の形態である「ハイブリッド型バーチャル株主総会」開催に向けた取組みをする企業経営者に先見の明とウィズコロナの時代を生き抜く力を感じたのでした。
コロナ禍で社会の当たり前が大きく変化する中、株式投資では次の新しい社会に対応して行ける企業を見極める必要性が高まりつつあります。投資家は様々なアンテナを立て、従来の財務情報はもとより、本年の株主総会開催に対する姿勢のような、数字として表れない企業経営者の先を見越す力や社会環境に柔軟に対応する能力を感じ取り、企業を選別することが必要になるのではないでしょうか。
(*1)ハイブリッド型バーチャル株主総会
取締役や株主等が一堂に会する物理的な場所で株主総会(リアル株主総会)を開催する一方で、リアル株主総会の場に在所しない株主がインターネット等の手段を用いて遠隔地から参加/出席することができる株主総会をいう。(経済産業省HPより)
(*2) ハイブリッド出席型バーチャル株主総会
リアル株主総会の開催に加え、リアル株主総会の場所に在所しない株主が、インターネット等の手段を用いて、株主総会に会社法上の「出席」をすることができる株主総会をいう。(経済産業省HPより)
(*3)ハイブリッド参加型バーチャル株主総会
リアル株主総会の開催に加え、リアル株主総会の開催場所に在所しない株主が、株主総会への法律上の「出席」を伴わずに、インターネット等の手段を用いて審議等を確認・傍聴することができる株主総会をいう。(経済産業省HPより)
森村 利果香 2020年07月10日