家庭経済の耳寄り情報

2020年09月25日

老後資金対策への後押し

 今や人生100年時代!リタイア後の生活期間は現役生活期間と同程度の約40年間はあると考えていいでしょう。平均寿命が年々伸びていくにつれ、おのずと生活資金も昔と比べれば、20年〜30年間分は必要となります。リタイア後、この超高齢化時代では、年金のみでは安心して老後生活を迎えられなくなっています。老後生活資金対策には現役時代からの自助努力は欠かせませんが、大黒柱である公的年金等に関して、この人生100年時代に合った施策が必要となります。

■「年金制度改革法案」が国会で成立
令和2年5月29日「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」が成立し、6月5日に公布されました。

「この法律の趣旨は、より多くの人がこれまでよりも長い期間にわたり多様な形で働くようになることが見込まれる中で、今後の社会・経済の変化を年金制度に反映し、長期化する高齢期の経済基盤の充実を図るためのものです。」(厚生労働省 年金制度改革法)
以下、法案の一部概要とメリットを見てみましょう。

■短時間労働者を被用者保険適用対象事業所の企業規模拡大
短時間労働者の企業規模要件の拡大による厚生年金の適用可   
2022年10月〜 現行事業所 500人 → 100人超へ
2024年10月〜 事業所 100人超 → 50人超へ

※短時間労働者とは契約社員、パート、アルバイトなど呼称に関係は有りません。下記の要件に該当する方をいいます。

・労働時間要件(週20時間以上 残業時間は除く)
・賃金要件  (月8.8万円以上 残業手当、通勤手当、ボーナス等は除く)
・勤務期間要件(1年以上)
・学生除外要件
・弁護士・税理士・社会保険労務士等の法律・会計事務を取り扱う士業は、適用業種に追加
(令和元年12月25日第123回社会保障審議会医療保険部会 資料2)

《メリット》
厚生年金に加入すると、将来基礎年金に上乗せする形で厚生年金が終身で受け取れます。企業規模要件が少人数の企業へも拡大されていき、要件に該当すれば、例えば、今まではパートで働いていた方は、65歳からの年金は老齢基礎年金のみでしたが、今後は老齢厚生年金がプラスされます。
また、障害状態になった場合は、障害基礎年金に加えて障害厚生年金が受け取れます。万一の場合の遺族厚生年金も給付されます。さらに、ケガや出産によって仕事を休まなければならない場合に賃金の3分の2程度の傷病手当金や出産手当金給付を受け取ることができるようになります。

《デメリット》
厚生年金保険料は労使折半ですので、適用される短時間労働者の賃金のうち保険料分減額になり、事業者もその分、保険料支払が発生します。
昨今のコロナ禍など、一旦の経済不安定の中では、事業主にとって負担となります。

■年金の受給開始時期の選択拡大
2022年4月〜 現在60歳〜70歳の期間選択が75歳までに拡大

《メリット》
繰下げ延長によるさらなる年金増額の拡大で選択肢が増えます。
70歳からの受給では65歳時支給額の最高142%の増額でしたが、75歳からの受給では最高184%となります。(昭和27年4月2日以降に生まれた方が対象)
例えば、老齢基礎年金額では、2020年の満額は月額65,141円ですが、この年金額として仮定すると、75歳からは119,859円となり、月額54,718の増額(終身)となります。

《デメリット》
現役を退き、75歳までの期間は無年金となる方もいますので、約10年間〜15年間は長く働くか、現役時代の自助努力で老後の生活資金を作らねばなりません。また、人生100年時代とはいえ、誰しも100歳まで生きるかどうかも分かりません。

※平均寿命(内閣府ホームページ「平均寿命の推移」)
2020年:男性80.93歳・女性87.65歳 → 2060年予測:男性84.19歳・女性90.93歳
※平均余命(厚生労働省ホームページ「平均余命の年次推移」)
現在65歳:男性17.54歳 → 82.54歳、女性22.42歳 → 87.42歳

繰下げする場合は各自の価値観にもよりますが、老齢基礎年金と老齢厚生年金の両方を繰下げるか、一方のみを選択するか、など老後資金を試算したうえ、検討してみましょう。

■確定拠出年金(DC)の加入可能要件の見直し
・2022年4月〜 DCの受給開始時期、確定給付企業年金(DB)の支給開始時期の選択肢を拡大
確定拠出年金企業型の受給開始時期  60歳~70歳までの間 → 60歳~75歳までの間へ
確定給付企業年金の支給開始時期  60歳~65歳までの間 → 60歳~70歳までの間へ

・2022年5月〜 確定拠出年金に加入することができる年齢の引き上げ
確定拠出年金企業型     65歳未満 → 70歳未満へ
確定拠出年金個人型(iDeCo) 60歳未満 → 65歳未満へ

・中小企業向け制度 対象範囲の拡大「iDeCoプラス」
 実施可能な企業の従業員数規模  100人以下 → 300人以下へ

《メリット》
現在、各企業の労使合意の必要ですが、これが不要となります。
2022年10月より企業型DCに加入している方はiDeCoに加入がしやすくなります。
60歳で定年退職し、企業型DCからiDeCoへ移管すれば、今までより5年間は老後資金作りが可能となります。

公的年金制度改正にあわせて、高齢期の就労が拡大する中で長期化する高齢期の経済基盤を充実できるようになります。また、中小企業を含むより多くの企業や個人が制度を活用して老後所得を確保することができるようになります。
確定拠出年金の受給開始時期、確定給付企業年金(DB)の支給開始時期が拡大することで、公的年金の受給期間と併せながら、それぞれのライフプランにあった形で選択できます。

■その他
就労期間を長く、老後資金の確保が可能
2022年4月〜在職老齢年金制度の支給停止額の見直しで、60歳〜64歳までは支給停止額28万円が65歳以降の方と同様に47万円に緩和(男性:昭和36年4月1日、女性:昭和41年4月1日生まれの方)。また、65歳以上は現在、退職等により厚生年金被保険者の資格を喪失するまでは、老齢厚生年金の額は改定されませんが、法改正では年金額を毎年10月に定時改定するなど高齢期の就労継続に反映されます。

■まとめ
人生100年時代に対応した法改正が成立したことで、元気な高齢者や女性にとってより長く働き、より多くの老後資金形成への後押しになります。
年金給付額を安定に推移させるには、日本経済の成長が前提ですが、今後の日本経済を見守りつつ、それぞれのライフプランに合わせ、今できることから始めましょう。

参考資料:厚生労働省 年金制度改正法(令和2年法律第40号)

入野 泰爾 2020年09月25日