家庭経済の耳寄り情報

2021年08月10日

確定拠出年金法の改正と拠出限度額の見直しについて

 「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」(令和2年法律第40号、以下「年金機能強化法」という。)が令和2年5月29日に成立し、6月5日に公布されたことについては既にご案内のとおりですが、この中で、被用者保険(厚生年金保険や健康保険など)の適用拡大、在職老齢年金の見直し、国民・厚生年金の繰り下げの拡大に加えて、確定拠出年金(以下「DC」という。)の加入要件の見直しなどの改正も行われました。
ここでは、DC制度の概要から、令和2年の法改正の内容、そして令和3年8月予定の政令改正(企業年金加入者に対する拠出限度額の見直し)の内容などについて、お話ししたいと思います。

1.DC制度の概要
 日本の年金制度は、所謂3階建構造になっており、1・2階部分(基礎年金及び厚生年金)が国民の老後生活の基本を支える役割を担っており、これと3階部分の企業年金・個人年金(確定給付企業年金(以下「DB」という。)及びDC)と合わせることで老後生活の多様な希望やニーズに対応するものになっています。
その中でDCは、将来の年金給付額が拠出された掛金とその運用収益との合計額をもとに決定されるという制度で、掛金を事業主が拠出する企業型DCと加入者自身が拠出する個人型DC(以下「iDeCo」という。)の2つがあります。
掛け金の運用は、預貯金、投資信託、保険商品等の運用商品の中から、加入者自身が商品を選択して行います。
企業型DCの加入対象者は企業型年金規約の承認を受けた企業に勤務する従業員(厚生年金保険被保険者)だけですが、iDeCoには自営業者、厚生年金保険被保険者、専業主婦(夫)等も加入することができます。
企業型DCの掛け金は、原則事業主が拠出しますが、規約に定めた場合は加入者も事業主の拠出額の範囲内で拠出することができます(これをマッチング拠出といいます。)。
一方、iDeCoの掛け金は、加入者自身が全額拠出することになります。
何れも税制上の優遇措置があり、事業主掛け金は全額損金算入が可能で、加入者の掛け金は全額が小規模共済等掛金控除の対象になります(社会保険料控除の対象ではありませんので注意が必要です。)。
また、運用中の収益については非課税で、年金で受け取る場合は公的年金等控除対象となり、一時金で受け取る場合は退職所得控除の対象となります。

2.DC法改正の主な内容
⑴ 中小企業向け制度の対象企業範囲の拡大(令和2年10月1日施行済)
中小企業向けの制度として、設立手続を簡素化した「簡易型DC」や企業年金の実施が困難な中小企業がiDeCoに加入する従業員の掛金に事業主が追加して掛金を拠出することができる制度(「中小事業主掛金納付制度(iDeCoプラス)」)があります。これらを利用できる中小企業の従業員規模については、現行の100人以下から300人以下に拡大されました。

⑵ 受給開始時期の選択肢の拡大(令和4年4月1日施行)
公的年金の受給開始時期の選択肢の拡大に併せ、令和4年4月からは企業型DC及びiDeCoについても老齢給付の支給開始時期の上限年齢が70歳から75歳に拡大されます。
これにより、確定拠出年金の老齢給付の受給開始時期が60歳(ただし、加入資格喪失後)から75歳までの間で選択できるようになりますので、老後の生活資金に余裕のある方などは、残高の全部を75歳まで非課税で運用できるようになります。

⑶ 企業型DCとiDeCoの加入可能年齢の拡大(令和4年5月1日施行)
企業型DCについては、60歳前と同一の事業所で引き続き雇用される厚生年金被保険者のDCの加入年齢が、65歳未満の規約で定める年齢から70歳未満の規約で定める年齢に引き上げられます。
また、iDeCoついては、現在加入できるのは60歳未満の国民年金被保険者ですが、令和4年5月からは65歳未満(国民年金の第2号被保険者又は国民年金の任意加入被保険者)に拡大されます。
また、海外居住者はこれまでiDeCoに加入できませんでしたが、国民年金に任意加入している海外居住者(日本国籍を有する海外居住者は国民年金の加入義務はありませんが任意加入はできます。)はiDeCoに加入できるようになります。

⑷ 企業型DC加入者のiDeCo加入要件の緩和(令和4年10月1日施行)
これまで企業型DC加入者は、規約に定めがある場合に限りiDeCoに加入できましたが、この要件が廃止されます。
具体的には、下表のとおり、月額2.0万円(DB併用の場合は1.2万円)の範囲内で、かつ、企業型DCの事業主掛金額との合計が月額5.5万円(DB併用の場合は2.75万円)の範囲内でiDeCoへの掛金の拠出が可能になります。
なお、マッチング拠出をしている企業型DCの加入者は、企業型DCの事業主掛金額を超えず、かつ、事業主掛金額との合計が月額5.5万円(DB併用の場合は2.75万円)の範囲内でマッチング拠出が可能ですが、マッチング拠出かiDeCoへの加入かを加入者ごとに選択できるようになります。

⑸ その他(令和4年5月1日施行)
上記のほかに、令和4年5月より、iDeCoの脱退一時金の支給要件の見直しが行われ、また、企業年金の制度間の年金資産の移換(ポータビリティ)の改善が図られます。

3.DC拠出限度額の見直し
 現在DCの拠出限度額については、下表のとおり、DB等(厚生年金基金、私学共済等を含む。)の加入の有無や企業型DCの規約でiDeCoへの加入を認めているがどうかなどにより、非常に複雑な形態になっています。
先に述べたように、令和4年10月1日からはiDeCoへの加入にあたり企業型DC規約での規定が必要なくなり、iDeCoへの拠出限度額は企業型DCの拠出額を基に決定される仕組みになりますが、昨年12月の令和3年度税制改正の大綱(令和2年12月21日閣議決定)において、確定拠出年金法施行令(以下「政令」という。)の改正を前提に、確定拠出年金制度について次の①及び②の見直し等が行われた後も、現行の税制上の優遇措置を適用するとの決定がなされました。
① DBの加入者の企業型DCの拠出限度額(現行:月額2.75万円)を、月額5.5万円からDB等ごとの掛金相当額を控除した額とすること
② DB制度の加入者のiDeCoの拠出限度額(現行:月額1.2万円)を、月額5.5万円からDB等ごとの掛金相当額及び企業型DCの掛金額を控除した額(月額2万円を上限)とすること
なお、政令の改正については、令和3年5月27日から同年6月25日まで意見募集(パブリックコメント)が行われ、施行日を令和6年12月1日として当初予定していたより少し遅れて令和3年8月末までに公布される予定です。

4.今後のDCの方向性の考察
 日本の企業年金制度については、長らく税制適格年金制度(昭和37年度導入、以下「適年」という。))や厚生年金基金制度(昭和41年度創設、以下「厚年基金」という。))と言った確定給付型の制度がその中核を担っていましたが、それらを継承した確定給付型の制度としてDB制度が平成14年4月に創設され、これと時期を同じくして平成13年10月に確定拠出型の制度であるDC制度が創設されました。
また、iDeCoは、国民年金第1号被保険者と企業年金のない国民年金第2号被保険者のための制度としてスタートしましたが、平成29年1月からは企業年金加入者、公務員等共済加入者、国民年金第3号被保険者にまで加入可能範囲が拡大され、全ての国民年金被保険者を対象とする制度となりました。
この間、企業年金の加入者数は、平成12年度末には2,120万人(適年964万人・厚年基金1,156万人)あったものが、令和2年度末には1,693万人(厚年基金13万人・DB933万人・企業型DC747万人))と減少するとともに、その内容も確定給付型から確定拠出型への移行が進んできました。
こうした中で、iDeCoの加入者は、平成28年度末の43万人から令和2年度末には194万人に大きく増加しています。
このように、企業年金や個人年金等に関する制度・税制については段階的に整備・拡充されてきたものの、働き方や勤務先によって受けられる税制上の非課税枠が異なっているなどの課題も残っていると思います。
こうしたことについて、これまで社会保障審議会企業年金・個人年人部会において、個人別の老後のための非課税拠出枠の制度、企業年金がある場合にはDB・DCへの企業の掛金額を非課税拠出枠から控除して残余がある場合はiDeCoを活用できる所謂「穴埋め型」といわれる制度等についての議論がなされており、iDeCo加入者への投資教育の充実やその在り方を含め、今後の動向等について注目していく必要があると思います。

中原 潔 2021年08月10日