家庭経済の耳寄り情報

2021年11月10日

育児・介護休業法の改正に伴う男性の育児休業取得促進策について

 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成三年法律第七十六号、以下「育児・介護休業法」という。)が改正され、令和3年6月9日に公布されました。この改正の主な内容は、次のとおりですが、ここでは男性の育児休業取得促進のための枠組みを中心に見ていきたいと思います。

(主な改正内容)
〈令和4年4月1日施行〉
・育児休業を取得しやすい雇用環境整備及び妊娠・出産の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置の義務付け
・有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和

〈令和4年10月1日施行〉
・出生時育児休業制度(男性の育児休業取得促進のための子の出生直後の時期における柔軟な育児休業の枠組み)の創設
・育児休業の分割取得と1歳到達後の育児休業の見直し

〈令和5年4月1日施行〉
・育児休業の取得の状況の公表の義務付け(労働者1,000人超の事業主が対象)

1 出生時育児休業制度創設の背景

 出生時育児休業制度とは、子供が1歳に達するまでの間の育児休業とは別に、子供が生まれてから8週間以内に最大4週間まで休業を取得することができる制度です。
 子供が生まれてからの8週間は女性が産後休業を取得している期間になりますので、基本的には男性が取得する休業になることから、「男性版産休」などと言われています。
 現在の法律でも子供が生まれてから8週間以内の期間内に、父親が育児休業(所謂「パパ休暇※1」)を取得し、その育児休業が終了した場合には、特別な事情がなくても、再度の取得が可能ですが、残念ながら、この制度はあまり知られてなく、男性の育児休業の取得率※2も著しく低い一方で、男性に子供が生まれてから8週間以内に育児休業を取得したいというニーズもあることから、パパ休暇を廃止して出生時育児休業制度が創設されました。

※1「パパ休暇」とは
 通常、育児休業の取得は原則1回までですが、子の出生後、父親が8週間以内に育児休業を取得した場合には、特別な事情がなくても、再度、育児休業が取得できる制度です。
 ・要件①:子の出生後8週間以内に育児休業を取得していること
 ・要件②:子の出生後8週間以内に育児休業が終了していること


※2育児休業の取得状況(令和2年度雇用均等基本調査より)
         (女 性)    (男 性)
 令和 2年度  81.6%    12.65%
 平成27年度  81.5%     2.65%
 平成22年度  83.7%     1.38%

2 出生時育児休業制度の概要〈令和4年10月1日施行〉

(1) 対象期間・休業期間・取得可能回数・取得申出の期限
 ・出生時育児休業の対象期間は、子供が生まれてから8週間以内※で、この期間内に4週間以内の休業を取得できるという制度です。
※出産予定日より早く生まれた場合は、出産日から出産予定日の8週間後まで、出産予定日より後に生まれた場合は、出産予定日から出産日の8週間後までが対象期間になります。
 ・取得できる回数は、対象期間内に2回まで取得することができますが、2回に分割して取得する場合は2回分まとめて申し出する必要があるので注意が必要です。
 ・出生時育児休業は、原則2週間前※までに申し出する必要があります。
※厚生労働省令の定めるところにより、今回の改正で事業主に求められる義務を上回る取組を実施することを労使協定で定める事業所については、1カ月以内の期間にすることができます。

(2) 事業主の義務等
 ・事業主は、出生時育児休業の申出があった場合、これを拒否することはできません。ただし、1回目の申出後に、新たにもう1回申出が出されたときはこれを拒否することができます。
 ※上記(1)で「2回に分割して取得する場合は2回分まとめて申出する必要がある。」となっているのはこの「ただし書」のためです。
 ・事業主は、育児休業と同様に、出生時育児休業についても、休業の申出をしたことや休業中の就労可能日についての申出をしたこと等を理由としてその者に対して不利益な取扱いをしてはならないとされています。

(3) 出生時育児休業中の就労
 ・労使協定を締結した上で、一定の範囲で就労することは可能です。
 ・なお、一定の範囲については、厚生労働省令で次のとおり定められています。
 ①出生時育児休業期間の所定労働日数の半分以下であること
 ②就業日における労働時間の合計が、出生時育児休業期間における所定労働時間の合計の半分以下であること
 ③出生時育児休業開始予定日とされた日又は出生時育児休業終了予定日とされた日を就業日とする場合は、当該日の労働時間数は、当該日の所定労働時間数に満たないものとすること

(4) 出生時育児休業給給付金の創設
 育児・介護休業法の改正に伴い雇用保険法も改正され、出生時育児休業給付金が創設され、1日当たり休業開始時賃金日額の67/100に相当する額が支給されます。

3 その他の主な関連改正事項

(1) 育児休業を取得しやすい雇用環境整備と妊娠・出産の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置の義務付け〈令和4年4月1日施行〉
 ・育児休業の申し出をし易くするため、「育児休業に関する研修の実施」、「相談体制の整備」、「その他厚生労働省令で定める措置」のいずれかの措置を講ずることが事業主に義務づけられます。
なお、厚生労働省令で定める措置とは、次のとおりとなっています。
 ①育児休業の取得に関する事例の収集及び当該事例の提供
 ②育児休業に関する制度及び育児休業の取得の促進に関する方針の周知
 ・労働者本人又はその配偶者が妊娠・出産したこと等を知ったときは、育児休業等に関する規程等を個別に周知することが事業主に義務付けられ(現在は「努力義務」になっています。)、これと併せて、育児休業等の取得に関する意向確認をすることも事業主に義務付けられます。

(2) 育児休業の分割取得と1歳到達後の育児休業の見直し〈令和4年10月1日施行〉
 ・「出生時育児休業」の創設に併せて、育児休業を取得しやすくするため、理由を問わず2回まで分割して取得することが可能になります。
・出生時育児休業も2分割して取得することが可能ですので、これにより、全部で4分割して育児に関する休業を取得することができるようになります。
 ・子供が1歳到達後の「1歳から1歳6ヵ月まで」と「1歳6ヵ月から2歳まで」の期間については、これまで明確な規定がありませんでしたが、育児休業を取得できる回数が原則1回となります。
 ・保育所に入所できない等の場合に子供が1歳到達後に育児休業を取得する場合の休業開始日は、1歳到達日の翌日と1歳6ヵ月到達日の翌日に限定されていましたので、夫婦で交代する場合の時期はこの時期に限定されていました。
改正後は、配偶者が育児休業をしている場合は「配偶者の育児休業終了予定日の翌日以前の日」を開始予定日にすることができるようになり、それぞれの仕事の都合で交代をする時期を決めるなど、柔軟に休業開始日を設定できるようになります。

4 最後に

 男性の正社員が出産・育児を目的として休暇・休業制度を利用しなかった理由については、「仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書」(平成30年度厚生労働省委託調査)によれば、「会社で育児休業制度が整備されていなかったから」、「収入を減らしたくなかったから」、「職場が育児休業制度を取得しづらい雰囲気だったから」が多くなっています。
 また、「令和2年度雇用均等基本調査」によれば、男性の育児休業取得率は12.65%と政府目標の13%に近い数字にはなりましたが、育児休業期間が5日未満の取得者の割合は28.33%となっており、休業期間についても注視する必要があります。
 今後、「育児休業を取得しやすい雇用環境整備及び妊娠・出産の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置の義務付け」(令和4年4月1日施行)や従業員1000人超の企業における「育児休業の取得の状況の公表の義務化」(令和5年4月1日施行)などがあることから、男性の育児休業の取得率向上が期待されますが、令和7年度の政府目標である30%の達成にあたっては、育児休業中の代替要員の確保が難しい中小企業等における取得率の向上が鍵になるのではないかと思われます。

中原 潔 2021年11月10日