家庭経済の耳寄り情報

2022年04月25日

働き方の未来 2035

 終身雇用、年功序列賃金、定年制度、退職金という日本の会社員を守っていた仕組みが無くなるかもしれません。

 2016年に厚生労働省が開催した有識者による「働き方の未来2035 ~一人ひとりが輝くために~」懇談会で1年かけてまとめた報告書「働き方の未来 2035年」が発表されました。
懇談会の開催趣旨として、個人の価値観の多様化が進んでいる中で、20年後の「2035 年を見据え、一人ひとりの事情に応じた多様な働き方が可能となるような社会への変革を目指し、これまでの延長線上にない検討が必要である。」(「」内は上記報告書より引用)と記されています。当時、並行して検討されていた働き方改革法案とは全く違う方向性での報告について記します。

 働き方改革法のひとつの柱として「同一労働同一賃金」という項目があります。これは簡単に言うと正規社員と非正規社員で同じ仕事を行うならば同じ給与にすべき、ということで雇用を守られない非正規社員を少なくする方向での対応が取られています。
ところが、懇談会の報告書では、全く逆に正規社員がなくなることを働き方の基本にしています。

懇談会では、会社という組織を基から変える内容が議論されました。
会社は社員を雇用せず、プロジェクト単位でその都度実行メンバーを募り、プロジェクト終了時までの契約を結ぶというプロジェクト組織を組みます。
プロジェクトの難易度に応じて報酬も期間も変わるかもしれません。
メンバーは真にジョブ型雇用になり、良い仕事を獲得するためにメンバー希望者にはスキルや知識を常に磨くことを求められます。そのため労働者はリカレント教育などにより積極的に実力を高めるよう努力することが求められます。

これにより「終身雇用」「年功序列賃金」「定年制度」「退職金」など会社によって社員が守られる仕組みは過去のものとなり、欧米のような転職が当たり前の形態になりそうです。会社側から見ると社員を守る仕組みは負担となり、現在でも縮小する方向に向かう兆候が見られます。社員には良い意味での競争社会が生まれ、グローバル社会でも活躍できる人材が育つようになると思われます。

 日本は今年4月から成年年齢が18歳に引き下げられましたが、未成年者は責任を持たなくても良いという環境で高校まで守られています。高校教育は良い大学に入るためだけの目標を掲げて勉強する生徒が多く見られますが、社会に出て何をするかの方向を見定めるという意味で、責任感育成の教育の必要性が増すことになるでしょう。若い頃から何をやりたいか、何が得意で好きなことなのかを考えプロを目指す意欲を養うことが求められます。

 会社においても学校を卒業した新入社員に基礎教育から行うという社員育成をする必要が無く、即戦力になるメンバーと契約を結ぶことになれば、教育費用もかからず生産性効率が上がり、優秀な人材を確保するために給与が上がることが期待されます。
日本の会社は就職ではなく就社だと言われるようなメンバーシップ型雇用ではなく、家族的な雰囲気のない組織になるかもしれませんが、給与が増え、ワークライフバランスが保てる生活と比べた場合、どちらが幸せでしょうか。

 日本は変化に対する慣性力が大きいため世界から取り残される危険が大きく、コロナ禍でのテレワーク普及、ロシアのウクライナ侵攻での代替エネルギー政策変更などに見られるように外部圧力が大きくないと新しい方向に進めないという問題があります。政府のDX対策も外部圧力が小さいために遅々として進展しません。働き方を変えることも日本では容易ではないかもしれませんが、厚生労働省の提案は画期的なことではないかと思います。今 小学生の子供たちが働き始める頃に会社はどのようになっているでしょうか。

厚生労働省「働き方の未来2035」~一人ひとりが輝くために~

池 俊夫 2022年04月25日