資産を運用する

家庭経済の耳より情報

2024年09月10日

老後資産の管理には認知症対策が肝心です

 人生100歳時代と言われるなかで、日本に住んでいる限りは社会保障の手厚い北欧諸国と違って、リタイア後の資金計画を自分自身でしっかりと考えておかなければなりません。

 リタイア時の環境や考え方は一人ひとり違うので、資金計画も人それぞれかと思います。

 何年生きるか想定して、生きている間の資金プランと亡くなった時の相続プランを細かく立てている方もいると思いますが、余命を正確につかめる人はいません。

 一つ言えることは、どんなに細かいプランを立てたとしても、万一認知症を患い進行してしまうと、実行することができなくなるプランが出てきてしまうということです。

 その理由は、「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。(改正民法3条の2)」と民法上に明文化されており、本人に意思能力が無いと判断されると、それまでに考えていたプランを実行できなくなる可能性があります。

1.契約の締結

(1) 意思能力がない状態でおこなわれた売買契約や賃貸契約は無効となります。
認知症が進行すると被相続人が所有している資産の運用や賃貸物件の管理が出来なくなります。

(2) このことは被相続人だけの問題ではなく、相続人の中に意思能力が無いと判断された方がいる場合は、相続発生時の遺産分割協議に代理人を立てなければ、遺産分割協議が成立しないという問題が起こります。

(3) また遺産分割協議なしに遺言により相続した不動産は、相続人に意思能力が無いと判断された場合は代理人でなければ相続登記をすることが出来ません。

 契約の締結ができないという問題についての対策としては、本人に代わって契約締結・取消ができる成年後見制度というものがあります。

成年後見制度とは、認知症の方、知的障害のある方、精神障害のある方など判断能力が不十分な人の財産管理や身上監護を、代理権や同意権・取消権が付与された成年後見人等が行う仕組みとして、2000年4月1日からスタートした制度です。

成年後見制度には、家庭裁判所が成年後見人等を選任する「法定後見」と、あらかじめ本人が任意後見人を選ぶ「任意後見」があります。
「法定後見」は判断能力の程度に応じて、「後見」「保佐」「補助」があり、また、「任意後見」は、本人の判断能力が十分なうちに、任意後見受任者と契約を結び、判断能力が不十分な状況になったときに備えるものです。

判断能力が不十分な人の財産や生活を保護し、不当な契約や財産の喪失を防ぐ目的で作られた制度ですが、スタートして20年以上が経った今も残念ながら利用率は低迷しています。
成年後見制度の利用者数は、2022年末で認知症の有病者数の3%程度に過ぎません。その理由として次の点が挙げられています。

①制度の趣旨が、本人のために財産を「保全」することにあるため、資産   運用や相続税対策のような柔軟な財産管理ができない。
②本人が亡くなるまで、専門家である後見人(もしくは後見監督への報酬が毎月発生し(一般的には年間30万円程度)、土地の売却などの作業は家庭裁判所の許可がないとできない。
③いちど成年後見制度を利用し始めたら、基本的に途中でやめることができない。

2.遺言の作成

遺言書を作成する際に意思能力がない場合、その遺言書は無効です。遺言作成
時の意思能力が争われることがあり、その際には遺言者の精神状態について
医師の診断書などが重要な証拠となります。


3.贈与や借入

認知症の影響で意思能力が欠如している状態で行われた贈与は無効とされます。
被相続人の死後に発覚した場合は、相続財産とみなされ相続税の課税対象となります。

上述のように、1.契約の締結について、認知症の対策として成年後見制度が上手く機能するとは、現在の制度の内容では言えないようです。
そして、2.遺言の作成、3.贈与や借入に関しては、認知症が進行してから行なうことは出来ません。

 それでは、たとえ年を取って認知症が進行し意思能力が低下したとしても、それまでに考えていたプランを実行させるためにできることを準備しておいた方が良いということになります。ただし、できることは各人で違います。

 実際に行なった対策の例をお聞きになりたければ、神奈川県ファイナンシャルプランナーズ協同組合にお問い合わせください。

荒川 衛 2024年09月10日