2016年04月20日
「人民元安」発の世界経済危機は起こるか?
リーマンショック以降、中国人民元は2014年1月にかけて21.3%も一貫して上昇(人民元高・米ドル安)していましたが、その後反転、今年1月にかけて8.4%も人民元安(米ドル高)が進行しました。その中でも特に、昨年8月突然の中国当局による「人民元の約2%の切り下げ」は皆さんのご記憶に新しいことと思います。
この人民元安の原因を、BIS(国際決済銀行)は3月のレポートで、第1に、米国のQE(量的緩和)政策実施時にドル建ての借金をした中国企業が人民元は先安と見込んで、繰り上げ返済するために元を売ってドルを調達している事、第2に、世界ではまだまだ人民元は上昇するとみられていたので、香港、台湾、シンガポールなどでは外貨として人民元を保有している人が多く、この人たちが慌てて預金を解約して元売りが起きている、ことを挙げています。
そこで中国政府は急激な為替変動を避けようと、市場のドル買いに対し、外貨準備を取り崩して対応(当局のドル売り)してきました。その代償として、外貨準備は14年のピーク時の4兆ドル近い水準から、今年2月末には3.2兆ドルまで急減しました。
しかし、中国の外貨準備には国有銀行の外貨準備も含んでいて、西側諸国と同じ基準でとらえると、中国の純粋な外貨準備といえるのは、約1兆3,000億ドル程度しかないとも言われています。
中国の過去の高い経済成長率は、結果的には投資バブルだったと言わざるを得ない状況で、資産の名に値しない不効率投資をやりすぎた結果起きたバブルで、「国全体のバランスシート(貸借対照表)が大きく傷んでしまった」と言わざるを得ません。
このバランスシートを正常化するには、不況がつらくても、投資と借金を圧縮していかなければならなく、それには7~10年は優にかかるので、中国経済が近く底打ちするのではないかといような甘い期待は控えめにしておいた方が良いと言えます。
従って、今後注目しなければならない点は、為替の動向で、これまでのような膨大な市場介入をしても元安が止まらず、そのうちに外貨準備が底をつくような状況になると、元の暴落という事態となりかねません。
そして、このような事態に中国政府が元安を容認するような構えになると、元が暴落する前に新興国が通貨安のドミノに襲われて、世界経済危機の引き金を引く可能性もあります。
その反面で、BISが指摘したような元安投機はもともと有限なものなので、そのうち下火になる可能性もあります。
いずれにしても、今後の人民元の為替動向からは目が離せられない状況が続くものと予想されます。
土井 健司 2016年04月20日