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家庭経済の耳より情報

2017年03月30日

銀行強盗が失業する日

 事件は、スウェーデンの首都ストックホルムで起きた。その日は、良く晴れた週明けの月曜日で、ストックホルム市内はビジネスマンが忙しそうに行き来していた。
その時、市内のある銀行の支店に男が入ってきた。男の右手には不気味な拳銃が。男は拳銃を銀行員に突き付け現金を要求してきた。すわ一大事、銀行強盗だ!

 しかし犯人は何も取らずにその場を立ち去った。特に、その場で心変わりしたからだとか、警察に追い詰められたからだというわけではない。何故、何も取らなかったのか?理由は明快だった!犯人が押し入った支店では現金を取り扱っていなかったからだ。

 今、スウェーデンを始めとして、世界の各地で「キャッシュレス化」が急速に進み、日常生活における現金利用率が減少してきている。
マスターカードの2014年調査によると、全世界で消費者が日常行う決済のうち85%は現金だと報告されている。しかし、この現金決済率は国によって大きく異なり、現金以外での決済の割合は、スウェーデンとフランスが59%、オランダ60%、シンガポール61%と年々高くなってきている。ちなみに、日本は14%と、非常に遅れている。

 スウェーデンの場合、2012年に導入された「スウィッシュ(Swish)」というモバイルアプリの存在が大きい。これは、スウェーデンの主要銀行が共同開発したアプリで、銀行口座間の送金を携帯電話上で、リアルタイムに処理することができ、しかも送金に必要なものは、送金先の電話番号のみと非常に便利。 
人口約983万人のスウェーデンで、実に350万人が利用するほど社会に浸透しており、「現金お断り」を掲げる店も増えてきている。教会に献金する時ですら、このアプリが使えるほどである。 
その結果、2014年調査では、国内の銀行支店(1,629店)のうち現金を取り扱わない支店は896店にも達していて、実に55%の支店が「キャッシュレス化」している。

 このような社会では、銀行強盗をするのも楽ではなくなってきた。スウェーデン国立犯罪防止委員会の発表によれば、2012年に発生した銀行強盗件数は21件と対前年比50%以上減と大幅に低下、過去の統計値でも最低の発生件数となっている。気が付いたら、「銀行に現金がある」という常識は、遠い過去の話になっているかもしれない。

土井 健司 2017年03月30日