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家庭経済の耳より情報

2021年02月25日

長期投資におけるリスクとその備えについて、短期投資と比較しながら考えてみる

 デジタル化が進行する世の中で、投資の世界ではスマホを使った少額積立投資やポイントを使った株式投資等が始まり、投資が身近で手軽なものになりつつあります。
しかし、投資の本質が変わったわけではなく、とりわけ投資のリスクを理解する重要性に変化はありません。ここでは、投資する期間と関連するリスクに焦点をあて、長期投資において何が重要なリスクなのか、そのリスクにどのように備えればよいかを考えてみます。

まず、資産運用の世界でよく言われるリスクとはどういうものでしょうか?

 例えばロボアドバイザーやラップ口座等が顧客に提案する資産運用(ポートフォリオ)案には、必ず予想リターンとリスクが明示されますが、このリスクは次のような意味を持ちます。

株式債券等の投資のリターンは一定ではなく、上下に変動します。これらのリターンがリターンの平均から乖離してばらつくことをリスクと考えます。このばらつきが大きいことをリスクが大きい、ばらつきが小さいことをリスクが小さいと呼び、このばらつきの大きさを測る方法として統計学の標準偏差を使います。

1標準偏差とはリターンのばらつきの3分の2(平均リターンー1標準偏差)から(平均リターン+1標準偏差)の間に入る数字のことです。1標準偏差の値が大きいと、リターンのばらつき、すなわちリスクが大きくなります。

ややこしいので例を挙げて説明します。ある資産運用案(ポートフォリオ案)の予想リターンが年率5%、リスク(=1標準偏差)が10%とすると、その資産運用案の年間のリターンのバラツキの3分の2が-5%〜+15%の間に入る、言い換えれば年間のリターンが3分の2の確率でその間に入る資産運用案だということです。このリスクはこのように通常年率で表すことが多いですが、平常時の短期的なリターンの変動幅を示していると言えます。以下このようなリスクを「リスク」と表します。

この「リスク」の影響を大きく受けるのはどのような投資家でしょう?

 投資を短期間で現金化しなければならない投資家です。投資を現金化することで、投資のリターンが確定してしまうので、短期のリターンがマイナスの時は損が確定してしまいます。このリターンの変動幅が大きいと、プラスのリターンの場合は良いのですが、マイナスのリターンの場合に損失が大きくなってしまいます。これを避けるために、資産分散等によってリターンの変動幅を小さくする、すなわち「リスク」を小さくすることは理にかなった行動と言えます。

では長期投資家にとって、この「リスク」はどのような影響を与えるのでしょうか?

 長期投資家にとって「リスク」を小さくすることは短期の投資家ほど重要ではないと思います。なぜなら、長期の投資家は短期の投資家と違い、短期で投資を現金化しないため、短期リターンの変動は投資の評価損益の増減に反映するだけで、損益が確定しないからです。

投資のリターンは短期的に大きく変動しても、時間の経過とともに市場の平均リターンに戻る傾向があると言われています。長期投資はこの市場の長期の平均リターンをターゲットにする投資ですから、短期リターンの変動幅である「リスク」を小さくする重要性は低いと考えます。

したがって、投資する資産の組み合わせ(安全資産を除くポートフォリオ)では、長期投資については「リスク」を下げるためだけの目的で、予想リターンが極端に低い資産を組み入れ、その結果ポートフォリオ全体の長期的な平均リターンが下がることは避けるべきだと考えています。

例えば、ロボアドバイザーやラップ口座等が顧客に提案するポートフォリオ案には必ず国内債券が組み入れられていますが、私は、長期投資の顧客の投資ポートフォリオには現在予想リターンが極端に低い国内債券は入れなくてもよいと考えています。

では、長期投資において考慮すべき重要なリスクとは何でしょう?

 それは、めったに起こらないのですが、一旦起こってしまうと巨大な損失をもたらすリスク(テールリスクと呼びます)だと思います。例えば、企業倒産やリーマンショック、コロナショック等の市場の大暴落のことです。投資している株式の企業が倒産してしまうと、大きな損失が確定し取り戻すことができません。また市場が大暴落すると、元の水準に戻るまで数年かかることがあり、元の水準に戻る前に、現金化してしまうと損が確定してしまいます。

これらのリスクにどのように備えれば良いのでしょうか?

 一つは、投資する銘柄を分散することです。1銘柄に集中して投資した場合、万が一その銘柄固有の原因で倒産や大暴落が生じたときに大損失につながりますが、投資する銘柄数を増やし分散して保有すれば、すべての銘柄がそれぞれの銘柄固有の原因で一斉に暴落や倒産することがほとんどなくなるので、大損失を被る可能性が低くなります。
投資信託は少額でも銘柄分散されていますので、このリスクに対応した金融商品だと言えます。

 二つ目は、投資する金額の大きさをコントロールすることです。まずは、家計のキャッシュフロー表を作成するなどして、将来の家計の収支、金融資産残高の推移を調べ、許容できる最大の損失額を求めます。次に、投資しようとしている資産の市場の大暴落時の下落率を過去の事例を参考にしながら見込みます。以上の二つから、市場の暴落時でも許容できる最大の損失額を越えない投資額が求められます。この投資額を上限のガイドラインにしながら、投資金額をコントロールするということです。

最後に

 まとめてみたいと思います。ラップ口座やロボアドバイザーでよく言われる「リスク」とは、短期的なリターンのばらつきを意味します。短期投資の場合には、このリターンのばらつき(「リスク」)を小さくすることは重要です。しかし、長期投資において、より重要なことは、めったに起こらないが一旦起こると大きな損失を被るリスク(テールリスク)に備えることです。そのためには、投資する銘柄を分散すること、投資金額の大きさをコントロールすることが重要と言うことです。

岸上 和夫 2021年02月25日