2021年04月25日
アリババへの締め付けから見えてくる中国の新たな戦略
アリババと云えば1999年に中国人の馬雲(ジャック・マー)氏が浙江省杭州市で設立した中国を代表する企業。そのアリババに対する締め付けを中国政府が強めている。
中国の規制当局は4月10日に電子商取引(EC)大手のアリババ集団に対して182億2,800万元(約3,000億円)の罰金処分を科す決定を出した。これは独占禁止法違反では過去最大の罰金となる。
違反内容は以下の通り。
アリババは2015年頃から市場での支配的な地位を乱用し、他の電子商取引企業と取引しないよう出店企業などに求めてきた。これにより商品やサービスの自由な流通を妨げられ、消費者や競合企業の利益を侵害してきたとしている。
更にこの体制が2020年11月1日から11月11日までの独身の日プロモーション期間中の流通取引総額4,800億元( 7兆9,000億円)を計上し、2019年の同期間比較で26%増加した事もこれに起因するものと判断された。
国家市場監督管理総局によると、罰金額はアリババの2019年の中国国内の売上高4,557億元(7兆5,000億円)の4%が対象となった。これは2020年3月期の純利益1,492億元(2兆4,560億円)の12%に相当する。
中国政府は「技術覇権」の確立を目的に成長産業を資金調達面から後押しする戦略を続けてきた。中国のネット業界を黎明期から支えてきたアリババも中国政府から大きな支援を受けて、世界株式時価総額8位まで成長を遂げてきた。しかしこうした後押しによる企業の成長はやがて国家の利益と矛盾するようになる。
アリババを巡っては、2020年10月24日に上海でジャック・マー氏が中国金融監督当局や銀行を「国内の金融規制が技術革新の足を引っ張っており、経済成長を高めるなら改革がなされねばならない」と批判した事がきっかけとなり、中国政府の逆鱗に触れた。これによりスマホ決済サービス「支付宝(アリペイ)」などを手掛ける傘下の金融会社アント・グループも2020年11月、「企業統治が不健全」を理由に金融当局の監督方針の変更で予定していた香港と上海での株式上場の延期を余儀なくされた。
その背景には2022年、5年に1度行われる秋の中国共産党大会を見据え、急成長を続けるネット企業への統制を強化し、中国共産党として盤石な体制づくりを進めたいという意向が強く働いていると思われる。市場原理を活用しながらも政府が統制する金融を柱とする経済秩序を重視する中国政府にとって、アント・グループのIPO(新規株式公開)は外国の持ち株比率が高くなることに繋がる懸念に警戒感を強めた。つまりこれから実施される「デジタル人民元」の実用化に向けて、アリババの存在が邪魔になったことが最大の要因と推測される。
2022年2月に開催される北京冬季五輪を見据えた、中央銀行の発行する法定通貨では世界初となるデジタル通貨が「デジタル人民元」である。今後、現代版シルクロード=拡大中華経済圏構想「一帯一路」エリアや中国から対外援助を受けている途上国などにも拡げ、米ドル中心の通貨体制から徐々に人民元が浸食していくことが予想される。
今年中国共産党創立100周年を迎え、2049年の中国建国100周年までに自国の企業を締め付けてでも、中国は強く豊かで民主的・文明的な調和のとれた「社会主義現代化国家」を目指して行くことだろう。
滝田 知一 2021年04月25日