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家庭経済の耳より情報

2016年06月20日

FinTech -新しい金融サービスの登場とその対応―

 私たちの日々の生活は、いろいろな面で金融と結びついています。
支払い、送金、借入れ、投資、家計や資産の管理など、お金との関係なしに生活することは困難になっています。こうしたお金に係わる金融サービスが、ITテクノロジーの進歩によって、今大きく変わろうとしています。その新しい金融サービスが最近日本でも関心を集めているフィンテック(FinTech)です。
FinTechという言葉は、金融(Finance)とテクノロジー(Technology)を組みわせた造語です。

フィンテックの歴史をたどると、銀行などの金融機関がITテクノロジーを使って業務改善を始めたのは
1950年代からで、当時銀行から金融システムの構築を請け負ったITベンダー並びにその技術のことをフィンテックと呼んでいました。
その後、1990年代のインターネットの誕生により、情報がリアルタイムに交信され、金融サービスが
オンラインで提供されるようになると、欧米では2000年頃から新たなフィンテックが始まりました。
以前のフィンテックと違うのは、技術の担い手がITベンダーではなく、新しいビジネスモデルを自ら
構築し、短期間のうちに急成長を遂げた企業(スタートアップ企業又はフィンテック企業)に変わったことです。即ちスタートアップ企業は、従来の金融サービスの中から改善を要望されているサービスを選び出し、より低コストで、より利用者が使いやすい形に変えて提供し始めました。2007年にスマートフォンが登場すると彼らの活動に一層拍車がかかり、次々と新しい金融サービスが開発されました。

日本におけるスタートアップ企業の誕生は、2008年にネット上で出資者を募るソーシャルファンディング企業に始まり、その後カード決済や家計簿サービスなどを提供する企業が創業されています。
そして2015年に入ると、急にフィンテックが大きな注目を集め始めました。
それはアメリカのスタートアップ企業のLending Clubが2014年12月にニューヨーク株式市場に上場され、時価総額が一時1兆円まで上昇したことが、日本の金融関係者に驚きを与え、もはやフィンテック企業を無視できない存在だと認識させたことにあると言われています。
日本の行政も同様の認識を持ち、2016年5月に銀行とフィンテック企業の連携を目指す改正銀行法を成立させました。銀行からフィンテック企業への出資は、5%の制限を超えた出資が可能となり、両者の資本提携により、新しい金融サービスの発展を促進することを目的としています。

それでは新しい金融サービスのうち、代表的なサービスを分野別に見てみましょう。

1.決 済
 日本の個人消費のうち、現金払いの割合は50%以上で、米国の20%未満に比べると大きいですが、
今後は日本もキャッシュレス化が進行すると予想されます。
特にスマートフォンを利用したクレジットカード決済が、キャッシュレス化を後押ししています。
こうした中で、一つ注目すべき動きがあります。それはデビットカードを使った「キャッシュアウト・
サービス」です。金融庁はこの実施に向けて、現在規制緩和の検討を進めています。
キャッシュアウトというのは、デビットカードで買い物をする際に、買い物代金(800円)とは別に
レジで現金(3,000円)を受取り、買い物代金と現金の合計額(3,800円)をデビットカードの口座から
引き落とすサービスです。
利用者にとっては銀行やATMを探すことなく、買い物のついでにレジで現金を入手でき、ATM手数料
も不要という利点があります。
日本ではデビットカードの利用率はまだ0.2%ですが、キャッシュアウト・サービスが実現すれば、利用
率が格段に上がると予想されます。

2.送 金
 日本国内の送金は、料金が安く着金も迅速で、海外に比べてレベルは高いと言えます。しかし海外送金は手数料が高く、改善すべき余地が残っています。
海外送金で格安の料金を提供している英国のフィンテック企業のサービスの仕組みを見てみましょう。
送金手数料を下げる秘訣は、国を超えて送金したい人同士をマッチングさせることにあります。
例えば、Aさんが日本から英国の友人Bさんに送金する場合、フィンテック企業は、英国のCさんが
日本の友人Dさんに送金するケースを探し出し、両者をマッチングさせて、実際の送金は日本でA→D
英国でC→Bという国内送金の形にして、為替手数料を無くし、送金手数料も下げる方法です。
このフィンテック企業は月間取引高が約1,000億円と大きいことと、社内プール資金の活用などにより、
両者の送金額に若干の差異あっても円滑な取引を確保していると推定されます。
海外送金手数料は、従来の金融機関では送金額の約5%必要なところ、フィンテック企業を利用すると
約0.5%程度で済みます。

3.融 資
 従来の融資は銀行やノンバンクなどが、借り手に対し自らの資金を出す形をとっていますが、近年
日本でも借り手と貸し手をインターネットで直接マッチングさせるサービスが生まれました。
これをソーシャルレンディングと呼んでいます。
リーマンショック以降、金融規制が厳格化し、与信判断基準が上がったため、信用力の低い人はお金を
借りにくくなり、一方投資家は金利水準の低下により高い投資リターンを得にくくなりました。
こうした状況下で、資金が必要な人と運用益を上げたい投資家を結び付けるサービスが生まれたのです
フィンテック企業は、ビックデータやAIを駆使して与信判断をし、金利は少し高くなりますが、従来の
金融機関では相手にされなかった人にもお金を貸し出せるようにしたことは大きな変化です。
ソーシャルレンディングは投資型のサービスですから、返済が滞った場合、お金を貸した投資家側の
元本は保証されない点は注意を要します。

4.投 資
 投資の分野で注目されているのはロボアドバイザーです。利用者がパソコンやスマートフォンで、
投資に関する幾つかの質問に答えると、ロボアドバイザーが人工知能で判断した最適なポートフォリオ
を提示します。利用者はこれに承諾できれば、金融商品の売買と運用を委託する仕組みです。
これまで一部の富裕層しか利用できなかった高度なポートフォリオサービスを、オンラインで誰でも
利用できるようになった訳です。
このサービスはアメリカで2010年から始まり、日本では2013年にフィンテック企業が2社
立ち上がりました。運用資産は10万円程度の少額から可能で、手数料も運用資産の1%と低く
なっています。

5.家計及び資産管理
 家計の収支や資産の状況を一か所にまとめて把握できる金融サービスをフィンテック企業が提供
しています。即ち、銀行、クレジットカード、証券などの取引履歴や残高を自動で計算し、家計簿や
資産の一覧表を作成し、それを利用者がスマートフォンを使って見ることのできるサービスです。
これがPFM(Personal Financial Management)と呼ばれる自動家計簿サービスです。
フィンテック企業は金融機関のサイト情報をWebスクレイピングという手法を使って取得します。
利用者からログイン情報を預かり、同意を得て情報を入手しています。
一方銀行は現在、残高照会や入出金明細といったサービスを外部業者に公開する仕組み(銀行API)の
提供を検討中です。APIが提供されれば、ログイン情報を預からないでもデータの取得が迅速且つ
正確になり、PFMサービスは向上します。
PFMサービスの日本の大手企業の利用者は、既に300万人を超えています。

6.ビットコインとブロックチェーン
 ビットコインは発行主体のない仮想通貨で、為替、送金、決済などの機能を持っています。
オンライン上の取引所でビットコインアドレス(口座)を作り、購入します。
ビットコインの取引を支える技術がブロックチェーンで、データを正確にかつ効率的、安価に保存できる点や、運用が始まった2008年以降一度も改ざんされたりシステムダウンを経験していないという
ことが評価されています。特に、分散型台帳システムの信頼性と低コストが評価の対象となっています。
2014年に、ビットコイン取引所の一つであるマウントゴックスが経営破綻し、ビットコインには
うさん臭いイメージが定着しましたが、この事件はマウントゴックスがユーザーからの預かり金を横領
した罪で経営破綻したので、ビットコインの仕組みそのものの信頼性が失われた訳ではありません。
仮想通貨に対する日本での法規制は、2016年5月に改正資金決済法が成立し、仮想通貨の悪用防止
や利用者保護のため取引所を登録制にし、利用者に対しても口座開設時の本人確認制を導入しました。
仮想通貨が現金やクレジットカードと並ぶ決済手段として、日本でも公式に認められたことになります。
銀行などの金融機関もブロックチェーン技術に大きな関心を持っていますが、現状では取引の確定に
10分間要することや、1秒間に処理できる取引の回数が7回に制約され、処理キャパシティが小さいため、大量取引の決済手段として直ぐに利用することはできません。

それではこのような新しい金融サービスに対し、私達はどのように対応したら良いのでしょうか。

第一は、金融サービスを選ぶための選択力を磨くことです。
従来は金融機関のどのサービスを選んでも、あまり差はありませんでした。しかし現在フィンテック企業からいろいろな金融サービスが提供されており、この中から自分に最適なサービスを選ぶためには、
自ら情報を集め、比較検討し、判断する金融リテラシー(理解・活用力)を高める必要があります。
同じ種類の金融サービスでも、提供する企業により内容の違いがあります。どの企業のサービスが自分
に適しているかの詳しい確認が重要です。
今後は金融リテラシーの高い人が得をする世の中になって行くでしょう。

第二は、選択した金融サービスの見直しです。    
一度選んだサービスは、使っているうちに慣れ親しんで、使い続け勝ちです。しかしフィンテックの
世界は日進月歩で進化しています。従って日々の情報収集を継続し、現在使っているサービスと比較し
より効率的なサービスが見つかれば、それに乗り換えて行く努力が必要です。

 第三は、セキュリティー対策をしっかりすることです。
今後フィンテックが進化すると、金融機関、フィンテック企業、事業会社などが提携して点在している
個人情報がつなげられ、ビックデータ化が進んでいきます。すると、個人情報が漏れるリスクが増加し
セキュリティー事故の発生する確率が大きくなります。
こした事故を防ぐためには各業界や金融庁が厳格なルールを作り、金融システムを守るセキュリティー
技術を高度化することがまず第一ですが、私達も関心を持って対応する必要があるのは、本人確認の
分野です。従来本人確認は、IDやパスワードでしたが、最近セキュリティを向上させる手段として、
本人のみが持っているものをパスワードの代わりに使う試みが始まっています。
手のひらや指紋などを使う生体認証はATMにも使われていますが、スマートフォンを使って自撮り
写真を送ったり、声を使った声紋認証による本人確認があります。
また、本人確認を本人に直接ではなく、別の機関(例えばFacebook)に任せて、その結果により本人
確認をするというOAuth認証があります。
これらの本人確認方法なども検討し、本人なりすまし、IDやパスワードの盗難を防ぐことが大切です。

松本 道明 2016年06月20日