2019年02月20日
あなたの老後資金、準備できていますか?
平成28年度の生命保険文化センターの意識調査によると、夫婦2人の老後生活費の最低必要額は月額で平均22.0万円(年額264万円)ということです。一方、厚生労働省の試算では、現在の男子被保険者の平均手取り収入は418万円で、夫婦2人の平均的な世帯の年金額は、その約62%(262万円)とされています。金額がほとんど同じなので、この結果から、平均的な年金額が貰えればなんとかなる、と思ったら大きな間違いです。
その理由は、第一に、年金からも税金と社会保険料が差し引かれる点です。
理由の第二は、物価と賃金の動向に応じて、年金額が実質的に減額されていく仕組みがあることです。年金減額の仕組みは大変複雑ですが、一言で言うと、夫婦二人の場合、今後20年以上の期間の経過後、数年前の年金額に対し80%程度まで年金額が減額されることになっています。当初の年金額が262万円でも、20年以上経過した後には、210万円程度になってしまう予定なのです。262万円の年金額を、年金減額が進んだ後でも貰えるようにするためには、当初は、330万円の年金を受給している必要があることになります。
■年金から、税金と社会保険料が差し引かれた手取り額
夫婦2人の平均的な世帯(厚生労働省試算)の年金額として、夫185万円、妻77万円、合計262万円の年金収入のある夫婦(65歳以上)の場合について、社会保険料と税金を計算してみましょう。
■社会保険料
社会保険料のうち、老後も継続的に支払いが必要となるのは国民健康保険料(介護分を含む)です。国民健康保険料は、医療分、支援分、介護分の3つから構成されています。
国民健康保険料の算定方法は市町村ごとにそれぞれ仕組みが異なり、算定方法はかなり複雑です。基本的に、所得割・資産割・均等割・平等割の4つのポイントから保険料を算出することになっていますが、最低2つ以上のポイントを用いれば、市町村ごとに算定基準を決めることができます。
ここでは、計算方法が開示されている横浜市の算定基準を用いて、国民健康保険料の額を計算してみたいと思います。横浜市の場合は所得割と均等割の2項目の合計で保険料の算定がなされています。
横浜市の保険料算定の仕組みに沿って計算すると、前述の、夫185万円、妻77万円、合計262万円の年金収入のある夫婦(65歳以上)の場合
① 医療分は、所得割額:45,318円、均等割額:51,488円、合計:96,800円 (十円未満切捨て)
② 支援分は、所得割額:13,581円、均等割額:15,824円、合計:29,400円 (十円未満切捨て)
③ 介護分は、所得割額: 4,618円、均等割額: 8,433円、合計:13,050円 (十円未満切捨て)
総計 139,250円 となります。
※ 計算に際しては様々な減額措置等があり、必ずしも、算定対象 x 料率=算出額にならないことがあります。
■所得税・住民税
上記の計算結果も踏まえ、「夫・妻ともに65歳の夫婦2人暮らし、収入は夫の公的年金185万円と妻の公的年金77万円、納付する社会保険料は年間約14万円」という世帯を例に、所得税額と住民税を計算してみましょう。妻の公的年金は公的年金控除120万円以下ですので非課税です。
世帯主の所得税の計算
(1)夫の所得金額
公的年金等の収入-公的年金等所得控除=185万円-120万円=65万円
(2)所得控除額
社会保険料控除+配偶者控除+基礎控除=14万円+38万円+38万円=90万円
(3)課税される所得金額
(1)-(2)=65万円-90万円 < 0万円
以上のように、65歳以上の世帯主の公的年金が185万円の夫婦二人世帯では、所得税は非課税となることが分りました。
住民税も同様にして、非課税の計算結果です。
以上から、厚生労働省がモデルとして選んだ「平均的な給与」の家庭では、年金から差し引かれるのは、年金額の約5%(約14万円)の社会保険料のみであることが分かります。この結果、手取り額は約248万円となります。このため、夫婦2人の平均的な世帯の場合には、年14万円相当を貯蓄等で準備しておけば、老後生活費の最低必要額は確保できそうです。ただし、実際には、月々の必要額に加え、家の修理や、病気・介護への備えなどを考えた貯蓄が別途必要となると考えられます。また、前述の通り、年金額自体が年々減少することへの備えも必要です。
■年金定期便の年金額が330万円でも安心できない
夫のみが働き、妻は専業主婦の家族の場合、年金を含めた年収が330万円あれば、税金と社会保険料を差し引かれても、老後生活費の最低必要額は満足できそうです。
しかし、この場合、前述の横浜市の制度によると、65歳での社会保険料は約24万円となり、税金は約6万円となります。330万円から税・社会保険料を差し引いて、手取りは夫婦合わせて約300万円です。年収が300万円を超えるあたりから、税金と社会保険料がかなり増えていきますので、収入が多くても、手取りがどのくらいになるかを良く確認しておく必要があります。
例としてあげた、年金額が330万円のケースは、これから年金を受給する人達の間では、かなり高い金額レベルにあるでしょう。しかし、その場合でも、前述の計算によれば、手取りは300万円程度です。
さらに、国民健康保険の介護分は、今後も徐々に上がることが想定され、加えて、前述の年金支給額の減額も考慮すると、自己資金による貯蓄は必須です。
以上のようなことから、ごく大雑把に、退職時には退職金などを含めて3000万円程度の貯蓄が欲しいと言われています。この額は貰える年金額にもよりますし、今後、家の改築など大きな出費が見込まれる等々の事情にも左右されます。これらの点をすべて含めて、老後資金の適切な額を準備するためには、キャッシュフロー表を作って検討する必要があります。キャッシュフロー表はご自分で作成することも可能です。ただ、ご自分で作るとどうしても収入・支出などに偏りのある内容になりがちです。ファイナンシャルプランナーは様々な情報を加味して、キャシュフロー表の作成をお手伝いしています。必要な場合には他者の情報も取り入れ、安心できる老後の資金プランを早めに作成されることをお勧めします。
川上 壮太 2019年02月20日